恩師と教え子が語る、原一男監督の教え。「カメラは必ず正面から撮れ」とは真逆の行動をした理由
カメラは真正面に回れ、という教え
司会 原さんの授業に興味がわきますが、どういうものだったのですか?
小林 原さんは、制作したものが出来上がってきて初めて意見を言うんですよね。満若さんが学生だった10年前というと、原さん、ものすごく厳しかったんですよね。「カメラは必ず正面から撮らなければいけない」だとか。こないだたまたま原さんが、原さんの教え子でもある後任の方の授業を見て「(カメラは必ず正面から撮らなければいけないと学生に教えていて)いまだにそんなことを教えているの?」と言ったというんですよね。
満若 それは、原さんから教わったままを学生に伝えているということですか?
小林 そうそう。原さんは自分対対象ということで、相手の目がしっかりカメラを向いていないといけない。そういう考えなんだけど、満若さんのこの映画は、撮影の仕方ひとつとっても、そういうのはまったく無視されていて(笑)。
満若 原一男イズムがないですか?
小林 そうそう(笑)。
満若 たしかに、原さんから「インタビューするときは真正面から撮れ」と教えられましたね。ぼくたちが三回生のときに10人くらい学生がいたと思うんですが、卒業制作が終わるころになると2人か3人まで減ってしまっていて。たぶん、原さんが熱く語るのについていけなかったんだろうなぁ。
それで学生時代に、原さんの『ニッポン国VS泉南石綿村』の制作がスタートして、小林さんとよく撮影に行っていたんですよね。当時、原さんが体調を崩されていたので、原さんの車をぼくが運転して。それでぼくが撮影していたものは「撮り方がなっていない」と日々、原さんから怒られつづけ(笑)。きょうは原さんがいないので言ってしまいますが、その後撮影する仕事に就いてみて、現場で行われていることは学生時代に原さんから教わったこととはまったく正反対な世界だったんですよね。
小林 ああ、そうねえ。
満若 まずカメラは「ぜったいに正面に回るな」。つまり、撮られる人たちの生活空間があるので、視線をふさぐような場所に立ってはいけない。テレビ・ドキュメンタリーの撮影ではそれが常識なんですね。たまに真正面に回ることもあるんですが、それは「狙い」をもった場合だけで。そういったこともあって、卒業してしばらくはまったく逆転した世界に合わせていくのに苦労したんですよね。