日本が「資源大国」になる好機――対EU、対中国、資源エネルギー覇権競争の大転換

平沼光(東京財団政策研究所研究員)

コロナ禍からの復興と再エネ

 エネルギー転換の動きはコロナ禍においても変わらない。世界一六三ヵ国(二〇二一年一月現在)が参加し再エネの普及促進を担う国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、二〇年四月に公表した報告書『Global Renewables Outlook』(以下、IRENA報告書)において、コロナ禍により打撃を受けた経済を立て直し、同時に気候変動問題にも対処するためには、再エネの普及を中核にしたエネルギー転換を進める「グローバル・グリーン・ニューディール(The Global Green New Deal)」の推進が効果的だと指摘している。

 IRENA報告書では、二〇五〇年までにCO排出量七〇%削減、温度上昇を二℃より十分下方に抑えるために必要なエネルギー転換にかかるコストは一九兆ドルだが、得られる利益は五〇兆~一四二兆ドルと見積もられている。さらに投資増により世界の再エネ分野の雇用は、五〇年までに今日の四倍に相当する四二〇〇万人に増加するとしている。

 また、国際エネルギー機関(IEA)からも、コロナ禍から復興し気候変動リスクに対処するためには、再エネの普及をはじめとするエネルギー転換を進める必要があるという趣旨の声明発表が繰り返されている。

グリーン・ディール政策のラッシュ

 コロナ禍後の復興を再エネや省エネ・高効率機器の普及を梃子にして進める動きは、各国の政策にも表れている。

 昨年四月、気候変動対策を担当する欧州一七ヵ国の大臣が、「欧州グリーン・ディール」をコロナ禍後の経済復興政策の中心とすべきという共同コメントを表明した。欧州グリーン・ディールとは、EU域内の温室効果ガス排出を二〇五〇年に実質ゼロとする「気候中立(climate-neutral)」の達成を目標にした欧州の環境政策である。同時に、エネルギー、産業、モビリティ、生物多様性、農業など、広範な分野を対象とした欧州の包括的な経済成長戦略でもある。エネルギー分野では再エネを重要分野として投資を進める方向にあり、EUでは今後一〇年間で約一二〇兆円(一兆ユーロ)を欧州グリーン・ディール政策に投資していく計画である。

 個別の国で見ると、ドイツでは、エネルギーシステム、次世代自動車、水素関連の技術開発を含め約六兆円(五〇〇億ユーロ)を、フランスでは水素、バイオ、航空等におけるグリーン技術開発や建築物のエネルギー効率化などを含めた環境対策に、二年間で約三・六兆円(三〇〇億ユーロ)を投資する方向にある。

 EU以外でも昨年七月に韓国が、コロナ禍からの復興戦略「韓国版ニューディール」構想を発表。これをグリーン・ニューディール政策と称し、二〇五〇年までのカーボンニュートラルの実現をめざし、再エネの普及拡大などを推進するため今後五年間で約七兆円(七三・四兆ウォン)の投資を計画している。米国も、バイデン大統領の公約では今後四年間で、再エネ、電気自動車(EV)の普及拡大、クリーンエネルギー技術開発などの脱炭素分野に約二〇〇兆円(二兆ドル)の投資を予定しており、世界はグリーン・ディール投資のラッシュを迎える様相にある。

 もちろん、こうした各国の投資計画が一〇〇%実行されるとは限らないが、各国政府が公式にグリーン・ディールの政策方針を明確な数値と期日をもって示していることは、再エネをはじめとする脱炭素ビジネスを促進させることは間違いないだろう。

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