日本が「資源大国」になる好機――対EU、対中国、資源エネルギー覇権競争の大転換
伝統的ビジネスからの撤退
各国では化石燃料の中でもCO2排出量が多い石炭を手放す動きが活発化し、既にベルギーは二〇一六年に脱石炭を達成しているほか、フランスをはじめ欧米各国でも二〇三〇年頃までの石炭ゼロ%の達成がめざされている(表1)。
世界の金融も脱石炭へと舵を切っている。世界銀行グループは、二〇一三年に石炭火力建設への金融支援を原則行わない方針を示している他、INGグループ(蘭)、BNPパリパ(仏)、ドイツ銀行(独)、USバンコープ(米)などが、石炭火力施設・採炭への新規直接融資を停止している。
大手電力会社が伝統的な化石燃料・原子力発電ビジネスから脱却する動きもある。一四年十一月、ドイツの四大電力会社の一つでありEU第四位の発電規模(一三年時点)を誇る従業員数約六万人のE.ON社が、ビジネス戦略の大転換を図っている。同社は本業である大規模集中型の化石燃料・原子力発電事業を従業員約二万人とともに本社から切り離して分社化することを発表。本社は、再エネ事業とその導入に適応するためのスマートグリッド事業、そして電力供給サービス事業の三つを基幹事業にしたのだ。
同じように、ドイツ四大電力会社の一つでEUでは第二位の発電規模(一三年時点)を誇る従業員数約六万人のRWE社も、一六年に大転換を行っている。同社は不採算部門化しつつある化石燃料、原子力による大規模集中型の発電事業を本社に従業員約二万人とともに残し、将来性が期待される再エネをはじめとするクリーンエネルギー事業を手掛ける新会社を立ち上げ、そこに従業員約四万人を移している。
これまで資源エネルギーの主導権を握ってきたと言っても過言ではない、石油メジャーたちのビジネス転換の動きも活発化している。石油王と呼ばれたロックフェラー家の資産を運用するロックフェラー・ファミリー・ファンドが、一六年三月、石油メジャーのエクソンモービルの株式売却を発表した。エクソンモービルといえば、ロックフェラーの源流ともいえる企業である。同ファンドのニュースリリースによれば「各国政府がCO2排出削減をめざす中で企業が石油を探査する健全な論理的根拠はない」としている。
北欧最大手の石油・ガス企業でありノルウェーに本社を置くエクイノール(equinor)社は、二〇五〇年にノルウェーでの事業活動に伴うCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、三〇年までに年間投資額の二割を再エネを対象にする取り組みを進めている。また、石油メジャーのセブンシスターズの一角として君臨したロイヤル・ダッチ・シェルも、五〇年までのCO2排出量実質ゼロを目標に、再エネへの投資を進めるなど、化石燃料を中心とする伝統的なビジネスから撤退する動きが顕著になってきている。
台頭するプラットフォーマー
脱炭素社会の構築という流れの中で、これまで伝統的なエネルギービジネスの主導権を握っていたステイクホルダーが次々と撤退する一方、新たにエネルギー分野で台頭してきたのがGAFAをはじめとするプラットフォーマーである。
脱炭素社会の構築に欠かせない太陽光発電や風力発電などの再エネは、天候によって発電量が左右される変動性があるため、変動性をコントロールして、需要と供給を一致させなければならない。再エネの変動性をコントロールするには、供給側となる発電部門と需要側となる消費者をインターネットで統合するとともに、気象予測データと需給予測データを解析し、その結果をもとにしたエネルギー需給指令を各発電所と消費者にインターネットで伝達し、コントロールする必要がある。
そのためにはAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータという高度な情報通信技術(ICT)を駆使したエネルギーシステムの構築が欠かせず、まさにそうした技術に長けたGAFAなどのプラットフォーマーの出番となるのである。
こうした再エネなどの変動性のある分散型エネルギーをコントロールする市場は「フレキシビリティ・マネジメント市場」と呼ばれ、成長市場となっている。
エネルギービジネスにおけるステイクホルダーの入れ替わりは企業の時価総額の推移からも見て取れる。企業の時価総額の上位を比較すると、二〇〇七年(五月末)は、一位エクソンモービル、五位ペトロチャイナ、七位ロイヤル・ダッチ・シェルと石油メジャーが上位に君臨していたが、一七年(五月末)には、一位アップル、二位アルファベット(グーグル持株会社)、三位マイクロソフト、四位アマゾン、五位フェイスブック、九位テンセント、一〇位アリババといったプラットフォーマーが上位を牛耳っている。一七年に一〇位以内に残った石油企業はエクソンモービルだけであり、プラットフォーマーがエネルギー分野を含めた総合力で台頭している。