日本が「資源大国」になる好機――対EU、対中国、資源エネルギー覇権競争の大転換

平沼光(東京財団政策研究所研究員)

CEの競争は始まっている

 EUが取り組むCEは、日本とはあまり関係ないと思われるかもしれない。しかし、遠い欧州の話として手放しで見ていられるほど状況は甘くない。二〇一八年にはフランスの主導により国際標準化機構(ISO)の中にCEの国際標準化を進める技術委員会が設置されており、二一年一月現在、参加国は七〇ヵ国、オブザーバー国は一一ヵ国に及ぶ。

 WTOのTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)では、WTO加盟国は原則としてISOなどの国際的な標準化機関が作成する国際規格を、自国の国家標準においても基礎とすることが義務付けられている。すなわち、欧州主導のCEが国際標準化されると、日本も再生資源の製造方法や品質などについて欧州のルールに従わなければならず、国際競争力に影響を受ける可能性がある。

 既に欧州ではフランスを本拠とするVEOLIA社やSUEZ社など、大規模なリサイクルを手掛ける「メガリサイクラー」とも呼べる大企業により、廃棄物回収から再資源化、そして再生資源販売を含めたビジネスモデルが確立されており、スケールメリットを活かした大規模なビジネス展開がなされている。

 中国の動きも著しい。資源循環系の企業買収を進めているのだ。一六年九月には、上海を拠点とする廃棄物管理企業、CNTY社(China Tianying Inc.)が、スペインの大手廃棄物管理企業、Urbaser社を約三〇〇〇億円(約二〇億ポンド)という巨額の資金で買収した。そして、一八年七月、北京で開催された第二〇回中国・EU首脳会議において、両者は包括的な戦略的パートナーシップを推し進める中で、CEの分野で対話・協力を進めることが合意されている。まさに、欧州のCE構築の動きに対し、中国は欧州企業の買収という形で勢力を拡大するとともに、EUとの協力関係の合意も取り付けるというしたたかな戦略に打って出ているのだ。

次期エネルギー基本計画は日本が世界を牽引するものに

 昨年十二月十五日の小泉進次郎環境大臣の記者会見では、日本の再エネは最大で現在の電力供給量の約二倍のポテンシャルがあることが報告されており、今後日本においても再エネを主力にしたエネルギー転換の方向に向かうことになるが、現状、日本の再エネの普及率は低い。

 再エネ普及で先行する欧州では、既に発電電力量構成における再エネ比率三〇%以上(二〇一八年)を達成している国も多く、EUでは二〇三〇年に五七%にまで普及すると推計されている。一方日本の普及率は一七%(一八年)にとどまっているばかりか、三〇年の目標も二二~二四%とかなり低い。CEの構築についても、既述の通りEUが国際的な再生資源市場の構築までを狙った資源循環政策を展開しているのに対し、日本のリサイクル法における再資源化とは、循環利用ができる「状態にすること」という形式的な準備行為にとどまり、とても欧州に対抗できるものではない。

 現状、日本はエネルギー転換とCEの構築で後れを取っているが、むしろこの状態を資源エネルギーの海外依存という呪縛から逃れる千載一遇のチャンスと考えるべきである。これまで地中に埋蔵された天然資源に乏しい日本は、資源の調達を海外からの輸入に依存せざるを得ず、常に資源の供給不安定化におびえてきた。一方、エネルギー転換とCEの構築がめざすものは、化石燃料依存から再エネ利用に転換し、天然資源ではなく再生資源を循環させる経済モデルである。すなわち、"資源調達を輸入に依存せざるを得ない"というこれまで日本にとって圧倒的に不利であったゲームのルールが、根底から覆されようとしているのだ。

 日本には再エネを主力化できる十分な資源ポテンシャルと技術がある。そして、日本は地下に埋蔵された化石燃料や鉱物資源に乏しくとも、地下から掘り出された天然資源の純度を高めて作られた製品が、膨大な量の廃棄物として地上に蓄積されている。これは、都市の中に存在する"都市鉱山"とも呼ばれており、資源として位置づけるなら、日本は紛れもない資源国となるだろう。

 例えば、金は六八〇〇トンが都市鉱山として日本国内に蓄積されており、世界の埋蔵量四万二〇〇〇トンの一六%に匹敵するとされている。これは各国・地域の地下埋蔵量(単位:トン)との比較(〇九年)では、一位アフリカ(六〇〇〇)、二位オーストラリア(五〇〇〇)、同ロシア、三位米国(三〇〇〇)、同インドネシアを抑えてなんと世界一の資源量となる。もちろん、物理的な資源量として各国の都市鉱山をカウントすればランキングは変わってくるが、技術がなければ都市鉱山を活用することはできない。先進諸国の中でもレアメタルのリサイクル、省資源化の高い技術を持つ日本は、国内の都市鉱山を最大限活用することで、資源を生み出す資源大国へと進化するチャンスなのだ。

 日本には、まだ巻き返すチャンスはある。大方針となるエネルギー基本計画は少なくとも三年ごとに策定される。現在の第五次計画は一八年に策定されていることから、次の第六次計画は二一年頃の予定であり、まさにこれから議論が活発化していく段階にある。特に、五〇年までのカーボンニュートラル達成のためには大胆な再エネの普及が必要であり、第六次計画は、いかにして先進諸外国に勝る再エネの導入目標を掲げられるかがポイントとなるだろう。

 また、エネルギー基本計画にCEの視点を盛り込むことも必要だ。これまではCEのような資源循環という視点は十分に反映されてこなかった。しかし、昨今のグリーン・ディールという世界の動きでは、エネルギー政策と資源循環政策は一体化した政策として自国の国際競争力を高める戦略となっている。

 次期エネルギー基本計画はこうした考えのもとで遅れを取り戻し、日本こそが世界のエネルギー転換とCEをリードする内容とすべきだ。

 

〔『中央公論』2021年3月号より〕

平沼光(東京財団政策研究所研究員)
ひらぬまひかる
1966年東京都生まれ。明治大学卒業後、日産自動車入社。2000年に東京財団入団。内閣府日本学術会議東日本大震災復興支援委員会エネルギー供給問題検討分科会委員等を歴任。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了。博士(社会科学)。『日本は世界一の環境エネルギー大国』『日本は世界一位の金属資源大国』『2040年のエネルギー覇権』など著書多数。
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