日本が「資源大国」になる好機――対EU、対中国、資源エネルギー覇権競争の大転換

平沼光(東京財団政策研究所研究員)

脱石油を進めるサウジアラビア

 脱炭素社会構築に向けた世界のエネルギー転換の波は、中東の産油国にも押し寄せている。世界二位(二〇一八年)の産油国であるサウジアラビアは、二〇三〇年までの経済改革計画となる「ビジョン2030」を一六年四月に策定。石油依存型経済から脱却した国家を建設していくことがめざされ、石油を除いたGDPにおける非石油製品の輸出割合を一六%から五〇%に上げること、非石油政府収入を一六三〇億リヤールから一兆リヤール(約二七〇〇億ドル)に増やすこと、などが政策目標として盛り込まれている。

 こうした政策を実現するための具体的な手段として、北西部の紅海沿岸で革新的なスマートシティである「NEOM」("新しい未来"の意)の建設に取り組んでいる。最新のICTを駆使したスマートな送配電網を導入し、太陽光や風力など一〇〇%再エネの供給が計画されている。さらに、再エネを活用して製造するグリーン水素などのクリーンエネルギー集約型産業を構築し、その商業化において世界のリーダーとなることがめざされており、産油国サウジアラビアも石油に代わる脱炭素型のエネルギーでの主導権を握ろうと躍起になっている。

資源の大転換"サーキュラー・エコノミー"

 世界が進めるグリーン・ディールでは再エネへの投資などエネルギー転換の動きに注目が集まりがちだが、その他にも見逃してはならない重要なポイントがある。

 それは、サーキュラー・エコノミー(Circular Economy、以下CE)の構築である。これは欧州グリーン・ディールの中で重要課題として提唱されている、持続可能な社会を構築するための資源循環政策である。現在の経済モデルは、地中に埋まっている天然資源を掘り出し、それをもとに製品を生産・消費し、不要になったら捨てる、採鉱→生産→消費→廃棄という、資源を直線的に消費し続けることで経済を成り立たせている線型経済(Liner Economy)とされている。

 一方、CEは、廃棄物を捨てるのではなく、きちんと管理・再生して再び資源として利用する、採鉱→生産→消費→廃棄物管理→廃棄物からの資源再生→再生資源による生産、という循環サークルを形成し、資源の価値を循環サークルの中で可能な限り持続させるという資源循環型の経済である。

 一見すると単なる環境政策に見えるが、これは経済戦略なのである。EUではCEによる資源循環は、EUの技術革新と雇用創出に大きな利益をもたらすものとされ、CE政策公表当時、二〇三五年までに一七万人以上の直接雇用を創出し、EUのGDPを五〇年までに七%増加させ、EUの国際競争力を向上させることが見込まれているのだ。

 CEとは、EUが率先して廃棄物を資源として再生する技術革新を進め、再生した資源から作られた製品を流通させる新たな再生資源市場を構築することにより、世界の経済モデルを転換させ、欧州から世界中へクリーンな製品やサービスを輸出することを狙った戦略なのだ。

 そして、CEでは再エネが主力となることは言うまでもない。環境に負荷をかけて採掘される天然資源よりも、廃棄物から再生した資源のほうが優先されることになる。それは、これまでの資源の常識を覆し、廃棄物が天然資源よりも価値を持つという資源の大転換を意味する。

 例えば、CEの文脈で、鉱物資源のレアアースを考えてみよう。レアアースは電気自動車(EV)や風力発電機のモーターなどに使用され、省エネ・高効率機器には欠かせない資源である一方、その埋蔵、生産とも中国への偏在性が高く需給不安定化のリスクを常に抱える鉱物資源である。これまで世界は中国依存というリスクの中、何とかレアアースを安定確保しようと苦心してきたわけだが、CEでは、中国が掘り出す天然資源よりも、どこかの国で廃棄物から資源再生されるレアアースのほうが価値を持つ。環境に負荷をかけて掘り出される天然資源は、石炭のように投資撤退される可能性もあるのだ。すなわち、廃棄物から資源を再生し、利用できる国が資源国になり、地勢図が大きく塗り替えられようとしているのだ。

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