ラーム・エマニュエル 駐日アメリカ大使インタビュー「中露の強権は見過ごせない――私の使命感と家族の歴史」

ラーム・エマニュエル(駐日アメリカ大使)

ロシアに「許可証」を与えるな

 ロシアによるウクライナ侵略は、(領土問題をめぐる武力行使や軍事的な威嚇を禁じている)国連憲章に明白に違反しています。ロシアは、世界の平和と安全により重い責任を持つ国連安全保障理事会常任理事国であるにもかかわらず、これを破りました。

 アメリカには「(カジノで有名な)ラスベガスで起きたことは、ラスベガスにとどまらない」という言い回しがあります(悪行はいずれ知れ渡るとの意)。ウクライナで起きたことも、ウクライナにとどまらず、世界規模の問題に発展しているのです。ウクライナ戦争は世界に例を見ない飢餓やエネルギー危機、インフレを引き起こし、それが各国の政情不安につながっていく恐れがあります。すでにあまりに多くの人命が失われ、ウクライナ国内外で1000万人を超える避難民も発生しています。

 ロシアはただ砲撃しているのではなく、多くの街を文字通り破壊し尽くしています。どうやったら再建できるのか、考えることすら難しいくらいです。

 ロシア軍はチェチェン、ジョージア、シリア、そして2014年のウクライナ・クリミア半島でも同じような攻撃を行ってきました。さらに、サイバー攻撃によって欧米の民主的な選挙にも介入してきました。

 こうした数々の出来事に対し、我々が手を打ってこなかったことが、結果としてロシアへの「許可証」となり、今日の事態につながったとも言えます。

 私がこの戦争について声を上げ続けているのは、10年、20年、30年後に振り返った時、ただ手をこまねいて世界が崩れていくのを見ていたとは言いたくないからです。みなさんも「あの時、自分はこれをした」と言いたいはずです。避難民支援をするにせよ、声を上げるにせよ、我々には歴史を前に動かしていく責任があります。世界が肩を寄せ合い、事態を前進させようとしなければ、それはロシアに「許可証」を与えることになり、これまでよりもさらに重大な結果につながってしまうのです。

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