習近平が目指すのは「家業」の永続と「覇業」の実現――台湾有事を防ぐ要訣とは

鈴木 隆(大東文化大学東洋研究所教授)
写真提供:photo AC
『習近平研究』(東京大学出版会)で第37回アジア・太平洋賞大賞を受賞した気鋭の中国研究者が、習近平の指導者としての特徴、目標、今後のゆくえを読み解く。
(『中央公論』2026年1月号より抜粋)

 2025年10月30日、第2期トランプ政権発足後、初めてとなる対面での米中首脳会談が韓国・釜山で開かれた。のちに会談の様子を振り返ったトランプ大統領は、同席した中国の高官たちがみな習近平国家主席の前で萎縮し、彼らは座っている間も微動だにしなかったとして「あんなにおびえた様子の人間を見たことがない」と述べた。習近平はあたかも、古代中国の皇帝のごとき存在感を示した。

 また、同年11月7日のいわゆる台湾有事に関する高市早苗首相の国会答弁に対し、中国政府は強く反発し経済的威圧を中心とする各種の対抗措置を発表した。自国民の社会・経済的利益を一顧だにしない、中国当局の冷静さを欠いた対応の背景には、官僚集団による習近平への忖度と忠誠心表明、2年後の党大会をにらんだ出世競争がある。

 本稿では、中華人民共和国(以下、中国)の最高指導者にして「現代中国の君主」ともいうべき習近平(1953年生、72歳、2025年10月末現在)について、拙著『習近平研究』(東京大学出版会、25年1月刊)の論旨の一部を紹介しつつ、中国政治の最近の動向をめぐる分析を加味して、習近平の政治家像と「政治史としての習近平時代」の特徴、今後の展望などを総合的に論じる。

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