赤根智子×フィリップ・オステン プーチンに逮捕状を出した日本人裁判官が語る、逮捕の可能性と自身への「指名手配」

赤根智子(国際刑事裁判所判事)×フィリップ・オステン(慶應義塾大学教授)

赤根判事への「指名手配」

──7月、ロシア当局は赤根判事を含むICCの判事ら3名をロシア刑法に違反したとして指名手配等にしました。


赤根 ICC全体の業務に関わることなので個人的な意見は差し控えますが、それによってICCの法的業務が阻害されるようなことがあってはなりません。私たちはローマ規程に則った法的・裁判手続きを行いましたし、それはこれからも同じです。なお、ICCの加盟国で構成する締約国会議議長、そして日本を含む関係国が、このようなことがあってはならないと深い懸念を示す非難声明を出したことを付け加えておきます。


オステン 担当判事への指名手配は明らかな報復措置です。ロシアはICCの管轄権を認めていないと言うだけで、嫌疑に対して正面からの反論は一切していない。ある意味でロシア側の無力感を示しているのかもしれません。

 担当判事への指名手配のような行為は、国際刑事法廷の歴史上、はじめてのことです。国際社会が一致団結して、ICCだけでなくあらゆる司法機関の構成員に対する報復措置はあってはならない、という明確なメッセージを発信すべきです。国連安保理にはロシアがいるので期待できませんが、国連総会が非難決議を採択することは考えられます。

(続きは『中央公論』2023年10月号で)


構成:中西賢司(読売新聞ベルリン支局)

中央公論 2023年10月号
電子版
オンライン書店
  • amazon
  • 楽天ブックス
  • 7net
  • 紀伊國屋
  • honto
  • TSUTAYA
赤根智子(国際刑事裁判所判事)×フィリップ・オステン(慶應義塾大学教授)
◆赤根智子〔あかねともこ〕
愛知県生まれ。1980年東京大学法学部卒業。82年検事任官。国連アジア極東犯罪防止研修所所長、法務省法務総合研究所所長、最高検察庁検事兼外務省国際司法協力担当大使などを経て、2018年3月より現職(任期は27年3月まで)。

◆フィリップ・オステン〔Philipp Osten〕
1973年西ドイツ・ボン生まれ。ベルリン・フンボルト大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。法学博士(フンボルト大学)。2003年慶應義塾大学法学部専任講師、准教授を経て、12年より現職。専門は刑法、国際刑法。
1  2  3