宮下洋一 ルポ くじ引きで政治に参加する市民たち――ベルギーの現場から

宮下洋一(ジャーナリスト)
ブリュッセルでの「気候対策」に関する市民会議の様子(筆者撮影、以下同)
 ポピュリズムの台頭や政治不信などで、世界的な民主主義の後退が指摘されるなか、西欧諸国では民主主義をアップデートする試みが始まっている。なかでも注目を集めるのが、政治参加にくじ引きを導入する「くじ引き民主主義」だ。なかでも先を行くベルギーの現場を、在仏ジャーナリストの宮下洋一氏が取材した。
(『中央公論』2024年1月号より抜粋)

 近年、欧州各国を中心に無作為抽出――いわゆる「くじ引き」で選ばれた市民の意見を直接、政治に反映させる試みが進んでいる。

 政治の表舞台に立ち、立法権や行政権を行使できるのは、これまで原則的には選挙で選ばれた政治家たちのみだった。だが、社会の多様化とともに「分断」が深まる民意を掬い取り、合意を形成できない政治家に対する国民の不信感が高まっている。くじ引き制はそうした現状を打開する手法として考え出された。性別、年齢、国籍、人種、学歴は問われない。重要なことは、バランスの取れた市民の「縮図」を作り、凝縮された民意を作り上げることだ。

 その具体的な方法にはいくつかのバリエーションがある。議員を選出するための投票人を選ぶ「参政権くじ引き制」や、議員自体をくじ引きで選ぶ「ロトクラシー」などだ。ただし、現状では、立法権や行政権のない会議体をくじ引きによって組織し、特定の政策課題に絞って討議した内容を政府に提言するという漸進的な形で実施されている。

 くじ引き制の導入は、危機が叫ばれる民主主義の救世主になりうるのか。その活用が進むベルギーの現場を取材した。

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