ウクライナ戦争が正教会へ落とす影
高橋沙奈美(九州大学大学院講師)
「地方教会」という多頭制の教会組織
現在の東方正教の世界は、この全地総主教座を筆頭に、ローマ帝国時代の五大総主教座から、カトリックの司教座となったローマを除いた古代総主教座(アレクサンドリア、アンティオキア、イェルサレム)の他、ロシア、ルーマニア、ギリシア、ジョージアなど、いくつもの地方教会から成っている。地方教会は、「独立教会」と「自治教会」に分けられ、前者は他の独立教会からの干渉を受けることがなく、首座主教と呼ばれるその最高位の聖職者たちは「互いに等しい」権能を持つ。ただし、全地総主教のみは「同輩中の第一人者」と呼ばれ、最高位の権威を認められる。この「権能」と「権威」をいかに解釈するかが難しいところだ。全地総主教座はこれを最大限に解釈するのに対し、ロシア正教会を筆頭としてこれに対抗する独立教会は、それではローマ教皇を頂点とするカトリックと変わるところがなく、正教会の伝統を否定することになると反駁する。
(『中央公論』10月号では、現代にいたるロシア・ウクライナの正教会の複雑な歴史と、ナショナリズムとの関係について論じている。)
高橋沙奈美(九州大学大学院講師)
〔たかはしさなみ〕
1979年生まれ。京都大学文学部、ロシア国立サンクトペテルブルク大学、ロシア国立ウラジーミル大学を経て、2011年北海道大学大学院博士課程単位取得退学。博士(学術)。著書に『迷えるウクライナ』など。
1979年生まれ。京都大学文学部、ロシア国立サンクトペテルブルク大学、ロシア国立ウラジーミル大学を経て、2011年北海道大学大学院博士課程単位取得退学。博士(学術)。著書に『迷えるウクライナ』など。
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