ドイツにおけるポピュリズムと大学

今野 元(愛知県立大学教授)
写真:stock.adobe.com
 ポピュリズムを煽り、ポピュリズムに脅かされる大学。急進右派政党AfDの伸張著しいドイツの現状を、『マックス・ヴェーバー』『ドイツ・ナショナリズム』などの著書のある今野元氏が紹介する。
(『中央公論』2025年12月号より抜粋)

精神的貴族としての大学教授

 ドイツ語圏における大学教員のエリートぶりは日本の比ではない。ドイツの大学教員は、博士論文のみならず教授資格論文をも受理され、数少ない講座を獲得した研究者である。全国津々浦々の大学にポストがあって、学問業績が乏しくても教壇に立てる日本の大学教員とは別物である。また世界の学問を牽引した実績があるドイツの大学は、いまも密接な国際的交流のなかにある。流行を後追いし輸入学問に邁進してきた日本の文系学界の内弁慶たちとは、生産力も戦闘経験も段違いである。

 このためドイツの博士号や教授号は、精神的貴族の称号として敬意の対象とされてきた。教授とは一つの職業のはずだが、一度「教授」と呼ばれた者は、退職・転職してもそう呼ばれつづける。博士号も重要で、連邦宰相(ドイツ首相)のヘルムート・コールやアンゲラ・メルケルは、政界でも「コール博士」「メルケル博士」と呼ばれていた。ドイツの大学人事には、州政府も(神学教職であればさらに地元司教も)参画するので、日本のように内輪で仲良しクラブを作ることが比較的難しい。

1  2  3