ドイツにおけるポピュリズムと大学
今野 元(愛知県立大学教授)
ネット上の攻撃を受ける大学
いまドイツの学生は大人しくなったが、代わりに大学はネット世界から攻撃されるようになった。
2025年7月、メルツ政権(CDU/CSU・SPD)は新任の連邦憲法裁判所判事候補3人を決定し、連邦議会の信任投票にかけようとした。そのうち左派政党のSPD(社会民主党)が指名したポツダム大学教授フラウケ・ブロジウス=ゲルスドルフについて、ネット上で過激な極左活動家だという悪評が出始めた。実際、彼女は、人間の尊厳が尊重されるのは出生以降のことだとして、人工妊娠中絶の許容範囲拡大に理解を示し、司法官となったイスラム女性のスカーフ着用に柔軟な態度を示し、クオータ制(女性への役職割当)を説いていた。そして評決当日の7月11日には、ついに彼女の論文剽窃疑惑が出た。ここに至って保守党のCDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟)が動揺し、与党内の決定事項だった3人の評決は急遽取りやめとなり、彼女は8月7日に候補辞退を発表した。
この論文剽窃の暴露という手法は、いまドイツで政敵を貶める戦略として、左右両陣営によって盛んに用いられている。その先駆的な例は、若手人気政治家だった国防大臣カー ル=テオドル・フォン・ウント・ツー・グッテンベルク男爵(CSU)のバイロイト大学での法学博士論文が剽窃疑惑をかけられ、政界引退を余儀なくされた事件(2011年)だった。こうした剽窃疑惑は、ドイツの大学に対する社会の不信感の表明でもあり、疑惑が提起されるたびに、当該大学は大騒ぎになっている。
(続きは『中央公論』2025年12月号で)
今野 元(愛知県立大学教授)
〔こんのはじめ〕
1973年東京都生まれ。ベルリン大学第一哲学部歴史学科修了。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。Dr. phil.。博士(法学)。専門は政治学、歴史学。『マックス・ヴェーバー』『教皇ベネディクトゥス一六世』『吉野作造と上杉愼吉』『フランス革命と神聖ローマ帝国の試煉』『ドイツ・ナショナリズム』(サントリー学芸賞)など著書多数。
1973年東京都生まれ。ベルリン大学第一哲学部歴史学科修了。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。Dr. phil.。博士(法学)。専門は政治学、歴史学。『マックス・ヴェーバー』『教皇ベネディクトゥス一六世』『吉野作造と上杉愼吉』『フランス革命と神聖ローマ帝国の試煉』『ドイツ・ナショナリズム』(サントリー学芸賞)など著書多数。





