習近平が目指すのは「家業」の永続と「覇業」の実現――台湾有事を防ぐ要訣とは

鈴木 隆(大東文化大学東洋研究所教授)

「政治史としての習近平時代」の長期化の可能性

 国家統治に関する習近平の主張のうち、中核に位置する三本柱は、①長期目標としての「中華民族の偉大な復興」の実現、②民主化運動による体制転換の阻止、③領土拡大と海洋進出の積極化である。習近平の言葉を借りれば、「中華民族の偉大な復興」の内実とは、建国100周年の2049年までに、「世界最大の社会主義国家」の中国が、「世界最強の資本主義国家」である米国に代わって覇権国の地位を奪取することである。習近平はこの壮大な目標を本気で追求している。

「中華民族の偉大な復興」には、「屈辱の近代」の復仇の意味も含まれる。例えば習近平は、日清戦争やそこでの北洋艦隊壊滅の逸話にしばしば言及する。習近平の理解では、今日の台湾問題の起源も日清戦争の敗北による台湾の植民地化にまで遡る。習近平が軍のトップに着任したのち、中国の海軍力増強の象徴として新たに就役、建造された2隻の空母の名称はそれぞれ、北洋艦隊全滅の地である「山東」と、地方指導者として17年間を過ごした第2の故郷、そして台湾正面に位置する「福建」であった。歴史の復仇と台湾統一という政治・軍事的意欲をよく示している。

 また、統治の過去例を参照すると、「政治史としての習近平時代」は、a狭義の習近平時代(習が中国共産党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席などの名目上の最高職に留まる時期)、b広義の習近平時代(習本人とその路線を引き継ぎ、後継指名を受けた者の任期を含む時期)のいずれかが想定できる。aは1950~70年代の約30年間、死去するまで独裁者として君臨した毛沢東時代に、bは1980~2000年代の同じく約30年間、鄧小平・江沢民・胡錦濤の三代の執政からなる広義の鄧小平時代に、それぞれ類似する。abのいずれも、習近平が最高指導者となった2010年代から30年代いっぱいまでの約30年間続く可能性がある。

 bの場合、第4期政権が終了する2032~33年から35年前後が、権力継承の時機として指摘できる。17年の19回党大会では、「社会主義現代化」の基本的実現の期限として、2035年という新たな時間的区切りが示された。2035年に習近平は82~83歳で、毛沢東の没年(82歳)とほぼ同じ歳になる。


(中略)

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