「鉄の女」サッチャーは柔軟な「大人の外交」で成功した
池本大輔(明治学院大学教授)
結語
サッチャーは米ソ超大国を相手にして、巧みな外交を展開した。「鉄の女」というあだ名とは裏腹に、その外交姿勢は柔軟であった。レーガンと緊密な関係を築く一方で、イギリスの国益を実現するためならば、イデオロギー的な立場を異にするゴルバチョフと協力することも厭わない、現実主義的な外交感覚の持ち主だったのである。反面、近隣諸国に対しては少々上から目線のところがあり、最終的にはヨーロッパ統合に対する硬直的な姿勢のために、政治の表舞台から去ることになった。
サッチャーとレーガン米大統領(左)
日本とイギリスが置かれた状況は異なるし、サッチャーが首相を務めた時代と現代とでは、国際社会のあり方も大きく変化している。それゆえ、サッチャー外交の教訓なるものを語ることに対しては、慎重であるべきだ。それでもあえて一言述べるとするなら、この国は「友好国」、この国は「非友好国」といった安易な色分けを避け、自国の目標を達成するために協力できる相手と可能な範囲で協力する、大人の外交の重要性だろうか。
(『中央公論』2026年1月号では、フォークランド紛争への対応、レーガン米大統領やソ連最高指導者のゴルバチョフへの姿勢など、サッチャー外交のポイントを解説している。)
池本大輔(明治学院大学教授)
〔いけもとだいすけ〕
1974年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。オックスフォード大学政治国際関係学部Ph.D.(政治学)。専門はヨーロッパ統合、ヨーロッパ国際関係史、イギリス政治。著書に『European Monetary Integration 1970-79』『サッチャー』など。
1974年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。オックスフォード大学政治国際関係学部Ph.D.(政治学)。専門はヨーロッパ統合、ヨーロッパ国際関係史、イギリス政治。著書に『European Monetary Integration 1970-79』『サッチャー』など。





