ブランド住宅街と混沌とした街が同居する新宿区。すべてを満たした街と風情のない街を抱える渋谷区の「輝く街・くすむ街」
牧野知弘の23区「街間格差」第3回
牧野知弘
風情を感じない幡ヶ谷、本町。どこからも遠い南平台
一方、同じ新宿近接でも甲州街道沿いの幡ヶ谷や本町は、歩いてもあまり風情を感じないエリアです。
幡ヶ谷は準工業地域が広いために町工場が多いうえ、京王線の幡ヶ谷駅は地下にあり、駅から出口を出れば甲州街道上を高速4号新宿線の高架が覆いかぶさり、区内では緑が少ないエリアです。
そうした環境が、結果として「街」としての雰囲気を損なってしまっているように思われます。
新宿駅までわずか2駅というアクセスのよさは特筆すべき点ですが、京王線から接続している都営新宿線が東京の中心部へのアクセス機能が弱いことから、全体としての交通利便性にも高い評価を付けることができません。
渋谷寄りのエリアでは、松濤から恵比寿近辺にかけてブランド住宅街が連続します。
しかし、どの「街」も渋谷駅まで何とか歩ける一方で、鉄道やバスなどの交通の便が抜群に良いか、と言えば必ずしもそうでもありません。
特に渋谷駅から玉川通りを上った先にある南平台は、鉄道へのアクセスとして井の頭線の神泉という小さな駅があるのみです。
井の頭線の神泉駅(写真提供:Photo AC)
渋谷駅前は現在、ヒカリエ、スクランブルスクエア、フクラス、ストリームなどの大規模オフィス・大型商業施設が立ち並び、賑わいをみせていますが、南平台付近まで坂を上ると、東急不動産本社が入る渋谷ソラスタ以外、目立ったオフィスや商業施設は少なく、住宅街としてもやや中途半端な立地になっているように思われます。
連載『牧野知弘の23区「街間格差」』最新記事
「街」が開花した清澄白河、しないままの東雲を抱える江東区、南北に長い形と鉄道・道路が今一つフィットしていない江戸川区の「輝く街・くすむ街」
江戸文化を支えたかつての賑わいを取り戻したい墨田区、川が分割した三つのエリアそれぞれ個性をみせる葛飾区の「輝く街・くすむ街」
最も小さな区でありながら魅力は23区最大級の台東区、北千住の成功に続いて殺伐としたイメージから脱却したい足立区の「輝く街・くすむ街」
牧野知弘
1959年生まれ。オラガ総研株式会社代表取締役。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、89年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。09年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。15年オラガ総研株式会社設立、以降現職。著書に『街間格差』『なぜ、街の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『こんな街に「家」を買ってはいけない』『2040年全ビジネスモデル消滅』など。テレビ、新聞などメディア出演多数。