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弘兼憲史×楠木 新 60歳からは身軽で新しい自分へ――「人生の仕上げ」の秘訣を語る

弘兼憲史(漫画家)×楠木 新(元神戸松蔭女子学院大学教授)

「学び直し」も「金儲け」もいい

弘兼 自分の仕事に関して言えば、僕は、常に同世代をターゲットにして作品を描いてきました。


楠木 「島耕作」シリーズが典型ですね。課長からスタートして、社長、会長を経て、今や社外取締役。


弘兼 『黄昏流星群』は、50歳の手前ぐらいのときに、同世代の人たちと飲み屋でたわいもない話をしていて、着想したんですよ。仕事に関しては、みんなだいたいやり尽くした感があって、「これからやりたいことは?」という話題になったら、異口同音に「燃えるような恋がしてみたい」と。ちょうど『マディソン郡の橋』という中高年の一瞬の恋を描いた作品がベストセラーになって。


楠木 映画にもなりましたよね。


弘兼 それに触発されたのもあるのですが、身を焼き尽くすような恋をしてみたい。しかし、現実には無理だから、漫画の世界でやってみよう、と描き始めたのです。


楠木 そういうきっかけで生まれたのですか。やっぱり居酒屋の会話はバカにできません。(笑)


弘兼 不思議なもので、今は「島耕作」よりも『黄昏流星群』のほうが描きやすい感じがするんですよ。サラリーマンは、社長や会長をやっても、75歳になるとビジネスの世界から離れることがほとんどですから。


楠木 恋心のほうが「現役感」が強い(笑)。面白いですね。


弘兼 楠木さんは、「転身力」をキーワードに、幅広い世代にエールを送っていらっしゃいますが、あの本には、著名人も含めたエピソードがたくさん出てきますね。


楠木 自分のことを語るだけでは説得力に欠けますから、取材して回って具体的な話を聞いたうえで提示していくことを基本にしています。定年後に新しいことをやるといっても、なかなか見つからない人もいる。そういう人たちが参考にできるようなヒントになればいいな、と思っているのです。


弘兼 「転身」までいかなくても、定年後にこれをやったらいいんじゃないか、というものはありますか?


楠木 そうですね。組織で働く、地域活動やボランティアに参加するとか、趣味を極める、あるいは身の丈に合った起業をするとか、いろいろなケースがありますが、多くの人にフィットするのは「学び直し」です。


弘兼 それは同感です。僕は、早稲田大学エクステンションセンターの公開講座で、何回か講師をやったことがあるのですが、歳を取っても学びたいという意欲を持った人は、たくさんいますよね。そこの生徒は、みんな一流企業をリタイアしたような賢そうな顔をしていて、難しい質問をされたらどうしよう、と思いましたけど。(笑)


楠木 私も高齢者大学やカルチャーセンターによく呼ばれるのですが、生徒さん同士に友達のような付き合いが生じているのです。学びは人とつながるきっかけになりますし、年齢を重ねてもできるのでお勧めです。

 ともあれ、自分に合ったこと、好きなことをやるのが一番です。また、最もポピュラーなのは働くということです。何らかの形で働いて収入を得ることが、社会とつながる一番の形だと思います。取材した実感では、お金儲けを考えている人は、何歳になってもお元気です。


弘兼 それも立派な生き方です。(笑)


楠木 弘兼さんは、まだまだお仕事が忙しいでしょうけれど、これからの人生について、何か考えていることはあるのですか?


弘兼 今75歳なので、とりあえず健康に生きられる期間を80歳までに設定して、残り5年間でゴルフに何回行けるかと考えていますね。目標は100回です。そうすると、1年に20回、ひと月に2回。カートがないコースなので、行けば10キロ歩いて回れるわけです。あとは、銀座の寿司屋に何回出かけられるか。


楠木 やっぱり食べ物ですね(笑)。私は、死ぬ前の1ヵ月に食べる昼食ランキングを作成しています。いよいよとなったら、30位から順に食べていこうと。順位は時々見直しているのですが、1位は地元神戸の豚まんで、これは不動です。


弘兼 若い頃に刷り込まれたものは、強い(笑)。でも、残された人生をそういう逆算で考えていると、案外長生きできそうな気がしませんか?


楠木 なにがしかの自分なりの目標を持とう、ということですね。


弘兼 リタイアしたら、過去の栄光は捨てて、新しい目標を持つ。シンプルに、そこから始めるのもいいでしょう。

撮影:言美 歩
構成:南山武志

増補版 弘兼流 60歳からの手ぶら人生

弘兼憲史

定年後は持ち物や人間関係を整理し、身軽に人生を楽しもう!『課長島耕作』などで知られる漫画家が60歳からの理想の生き方をつづったベストセラーの増補版。

転身力――「新しい自分」の見つけ方、育て方

楠木新

人生100年とも言われる長寿化の現代、長期雇用の揺らぎ、コロナ禍の影響などで、生き方や働き方が大きく変わりつつある。だがそれは、誰もが人生二毛作、三毛作を楽しめる豊かな時代でもある。求められるのは、可能性を信じ、自分を変えるための「転身力」だ。「将来のリスクに備えたい」「収入は減っても好きな仕事で食べていけたら」「生涯現役で働きたい」といった思いに寄り添い、豊富な実例をもとにヒントを提示する。

中央公論 2022年10月号
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弘兼憲史(漫画家)×楠木 新(元神戸松蔭女子学院大学教授)
◆弘兼憲史〔ひろかねけんし〕
1947年山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現パナソニックホールディングス)勤務を経て74年に漫画家としてデビュー。『人間交差点』で小学館漫画賞、『課長島耕作』で講談社漫画賞、『黄昏流星群』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、日本漫画協会賞大賞を受賞し、2007年紫綬褒章を受章。

◆楠木 新〔くすのきあらた〕
1954年神戸市生まれ。京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に、経営企画、支社長等を経験。勤務と並行して「働く意味」「個人と組織の関係」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年定年退職。18年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授。著書に『定年後』『転身力』など。
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