越 直美「自治体も企業も多様性なくして成長なし」

越 直美(三浦法律事務所弁護士)

課題解決のために市長から起業家へ

 大津市長を退任した後、私は次にできることを探しました。市長時代は市民との約束を果たすことに必死で、辞めた後のことを全く考えていなかったのです。


 市長の仕事は、市民の皆さんから良いことも悪いこともダイレクトに反応が返ってくるのでやりがいがあり、毎日が充実していました。退任するときに「今が人生の青春時代で、これから余生みたいになったら、どうしよう」と不安になったぐらいです。弁護士の知識を生かせるテック関係の起業も考えましたが、いまいちピンとこない。もう一度「自分にしかできない仕事は何か」を自問するうちに、ある課題にたどり着きました。


 私は大津市で、「女性が自由に選択できる社会」をつくりたいと思い、保育園を増やしました。そのことで、女性は子育てをしながら仕事を続けられるようになった。しかしそれで、働く女性の問題が解決したわけではありません。


 例えば、女性の上場企業の役員は10・6%(2023年7月時点)、女性の管理職は約13%にとどまっています。会社の中で、女性と男性の立場が異なるのです。女性が企業の意思決定に携わることで、今までとは違う視点を持ち込み、組織を変える必要があると思います。もちろん、女性だけに限りません。日本企業がもっとイノベーションを起こすために、若者、外国人など、多様な人たちの意見を取り入れ、事業を成長させていく必要があります。


 21年2月、友人の松澤香(かおる)弁護士とともに、「ダイバーシティは成長戦略」を掲げて、女性役員を育成・紹介する「OnBoard」という会社を立ち上げました。市長時代に尽力した「女性が自由に選択できる社会」実現に続く変革です。市長としては企業の外の社会基盤の整備を行いましたが、次は、企業の内部を変えることで世の中を良くしていきたい。市長から起業家になるのは異なるキャリアへの転身に見えるかもしれませんが、私の中ではつながっているのです。

(続きは『中央公論』2024年7号で)


構成:室谷明津子

中央公論 2024年7月号
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越 直美(三浦法律事務所弁護士)
〔こしなおみ〕
西村あさひ法律事務所などを経て、2012年から20年まで大津市長。OnBoard株式会社CEO、ソフトバンクの社外取締役、三菱総研の社外監査役も務める。著書に『公民連携まちづくりの実践──公共資産の活用とスマートシティ』など。
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