日産買収を目指したホンハイの狙い、ホンダの勝算

鈴木 均(地経学研究所主任研究員)
写真:stock.adobe.com
 昨年12月にホンダと日産が経営統合に向けた協議に入ることを発表し、世界に衝撃を与えた。ところが今年2月13日、協議の打ち切りが発表された。今回の統合協議のきっかけの一つとされるのが、台湾のホンハイ精密工業による日産買収だ。果たしてホンハイのねらいとは何なのか――。『自動車の世界史』(中公新書)の著書がある鈴木均氏が論じる。
(『中央公論』2025年3月号より抜粋)
目次
  1. ホンダ・日産経営統合の衝撃
  2. ホンハイという企業
  3. 台湾の国策としてのEV推進

ホンハイという企業

 日産株の取得に名乗りを上げてきたホンハイとは、どのような企業なのか。

 ホンハイは1974年2月20日、郭台銘によってテレビ部品を製造する鴻海塑膠(プラスチック)企業として設立された。本社を新北市に置く。82年には商号を鴻海精密工業に改め、パソコン関連部品も手掛けるようになり、85年に米国支社を立ち上げて以降フォックスコンという名称でブランドを展開、88年に中国支社を立ち上げて富士康(フォックスコン)ブランドを中国でも展開した。

 その後、ブラックベリー、iPhone、iPad、キンドルなどの電子端末の生産の他、任天堂やセガ、ソニー、マイクロソフトの歴代ゲーム機やソフトバンクのヒト型ロボット「ペッパー」の生産も手掛け、世界最大手の電子機器受託製造企業(2023年)とされる。16年にシャープを買収して日本でもその名が広く知られるようになった。直近ではスマート家電、クラウドやネットワーク製品、電子機器などを手掛け、中国での売上比率が高い。

 19年には創業者の郭が台湾総統選出馬のため会長を退任、半導体部門のトップを務めていた劉揚偉(りゅうようい)が後任の会長に就任しており、劉の下でEV開発が本格化した。

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