前統合幕僚長が語る、安全保障環境の大変化

吉田圭秀(前統合幕僚長)×神保 謙(慶應義塾大学教授/国際文化会館常務理事)

この3年で世界は大きく変わった

神保 まさに歴史的大転換期の統幕長として、地球規模の戦略環境を見据えた防衛外交を展開されたことは画期的でした。

 バイデン米政権下、オースティン国防長官のもとで示された「統合抑止」は、軍事と経済・外交を連動させ、同盟国との一体運用で抑止力を高めるという考え方です。

 それに呼応して、自衛隊も米軍との共同作戦と指揮統制の連携を深化させる方向へ進みました。

 一方で、自衛隊の自律性と完結性を高めようとする動きも並行して進んだように思います。これまで有事シナリオで米軍を補完する立場が多かった日本も、今やより主体的・戦略的に「何ができるか」を問われています。つまり、同盟連携による統合性と、自らの行動能力を確立する自律性をいかに両立させるか、それが現在の防衛政策の大きなテーマだと受け止めています。


吉田 そのとおりです。私もそれに近い認識を持って2年4ヵ月を過ごしてきました。

 その上で、もう少し具体的な話をしたい。実は2022年時点から戦略環境はまた大きく動いていて、すでに安全保障3文書ではキャッチアップできないほどです。かつて岸田文雄総理は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」とおっしゃいましたが、まさにそういう状況になってきています。

 では何が変わったのか。私は七つの要素があると思っています。


(『中央公論』12月号では、「7つの大変化」について吉田氏が語り、神保氏がさらに掘り下げている。)

構成:島田栄昭

中央公論 2025年12月号
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吉田圭秀(前統合幕僚長)×神保 謙(慶應義塾大学教授/国際文化会館常務理事)
◆吉田圭秀〔よしだよしひで〕
1962年東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、86年に陸上自衛隊入隊。内閣官房国家安全保障局内閣審議官、陸上総隊司令官、陸上幕僚長などを歴任。2023年3月から25年8月まで、防衛大学校以外の卒業者としては初めて自衛隊制服組トップである統合幕僚長を務めた。

◆神保 謙〔じんぼけん〕
1974年群馬県生まれ。国際政治学者。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。同大学准教授などを経て現職。編著に『アジア太平洋の安全保障アーキテクチャ』、共著に『現代日本の地政学』『検証安倍政権』など。
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