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《追悼 益川敏英さん》【前編】若者が科学に夢を持てる国に

益川敏英/聞き手・竹内 薫(科学作家)
益川敏英氏〔撮影:霜越春樹〕
素粒子物理学の発展に貢献し、2008年、南部陽一郎氏、小林誠氏とともにノーベル物理学賞に輝いた益川敏英氏がこの7月23日に亡くなりました。
受賞決定後の記者会見で「たいして嬉しくない」と述べるなど、ユニークな言動で人気を集め、研究活動のかたわら、講演やテレビ出演も精力的にこなした益川氏。科学作家の竹内薫氏による生前のインタビューを公開いたします。
(『中央公論』2010年8月号より)

科学政策は「国家百年の計」

竹内 昨今、政府による事業仕分けで、科学技術予算が大幅に削られたりしています。基礎科学が弱くなることは大変な問題だと思うのですが、どのようにお感じですか。


益川 基礎科学での成果が現実の社会に還元されていくまで、過去の例を見てみると、100年程度かかっています。
 たとえば電波というものを人間が自由自在に操れるようになったのは、第二次世界大戦のときのレーダーが始まりでしょう。やがて戦後になってテレビが出てきます。
 それを支えたのは、電磁場に関する法則を集大成したマクスウェル方程式です。1864年にマクスウェルという人がまとめました。それから1940年代まで80年ぐらい経っている。ほかの分野でもみんなそうです。


竹内 先日、財務省に呼ばれて、「科学技術のどういう分野にお金を振り分ければいいと思うか」と訊かれたんです。基礎研究が応用に生かされるまでは非常に時間がかかる。大発見をした本人も、それが将来何の役に立つかはわからない。それが科学の本質だと、一席ぶってきました。(笑)


益川 そこがキーポイント。今、基礎科学を枯らしてしまったら、将来の発展もなくなってしまう。
 最近は大学の中でも、実用化の部分にばかり光が当たるようになってきました。工学系だとベンチャービジネスが華々しくて、小さな基礎研究が霞んで見えてしまいます。あんなのは要らないんじゃないかという話にもなってくる。そのへんはしっかりバランスを考えなくてはいけない。
 しかも今は、素粒子実験を1000人規模で行ったりします。


竹内 現代科学はビッグサイエンスの時代です。先生のご研究の場合、理論を実際に検証する段階ですごくお金がかかりますよね。


益川 ときどき、「そんなことをやって、おまえたちは面白いか」なんて言う人がいるけれども、好きか嫌いかではなくて、学問というのは必然的に、発展すればするほど、大規模になっていかざるをえない。
 そのときに、基礎科学というものをきちんと育てていくような土壌がないと。それこそが文化だと、僕は思うんだけれども。

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