ヒットを"準備"する~芦沢央10周年記念作品『夜の道標』の成功に向けて、我々は何をやっていたか~

あの本が売れてるワケ 若手営業社員が探ってみた

「本を読む」という準備

この「書店員がプルーフを読む」ということがどれくらいありがたいことかというと、一日200点も新刊が出る業界において、扱う本を全部読んでから売るというということができず、版元ですら自社の刊行物をすべて読んでいる社員はいないのではないかと思われます。読まなきゃわからない「本」というコンテンツを、読まなくてもできるだけ想像しやすいようにと、たとえばラノベで多く見られるような「内容紹介即タイトル」という作戦が生まれるのは当然の成り行きかもしれません。

 

大きい書店だと書店員は「文芸担当」とか「新書担当」などと分かれ、棚を一任されることがありますが、とはいえ、「じゃあ自分の担当の書籍だけめちゃ把握していればいいね!」とはいきません。今年話題になった『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』はご存じでしょうか。これは図書館の司書が、利用者が間違って覚えたタイトルのニュアンスをくみ取って目当ての本を探し出すという本で、小社では『八日目の蝉』を『八月の蝉』と間違えられたとか。よく昆虫図鑑みたいな本を出してこなかったなと思います。これと同様に、日々「あのー、今朝新聞に出てたやつ」などの曖昧極まりない情報で脳内検索をかけさせられる書店員が、自分の棚だけを把握すればいいってことはない...。

 

さて近年おそらく最も受賞作が売れる賞として名高い「本屋大賞」ですが、これの二次投票の要綱は「ノミネート作品をすべて読んだ上で、全作品に感想コメントを書き、ベスト3に順位をつけて投票」です。ノミネート作品が10作品で、その発表から二次投票締め切りまで1カ月とちょっと。単純計算で3日に1冊読んでいちいち感想をまとめないといけないのです。しかし逆に言えば受賞した作品は、投票した全書店員がすでに読んでいるということで、つまり「書店員それぞれに売り方の見通しがついた状態で受賞発表を迎えられる」ということ。本屋大賞がほかの賞よりも頭一つ売れが立つのはここに秘訣がありそうです。すなわち、事前に書店員が読んだ本は、売れるッ!

かなり遠回りしましたが、どれだけ大変なことかを分かったうえでためしにTwitterで「夜の道標 プルーフ」と検索をかけてみてください。素敵な感想tweetの数々!!たくさんの書店員に「事前に」愛された作品ということですね!

 

もちろん製本されていないとはいえ本の中身は商品ですので、無料で配ることにはリスクも伴います。先日は某出版社のつくったプルーフがメルカリに出品されている、というのがTwitterで少し話題になりました。非売品の転売の是非などの議論を読んでいますが、これをされると大変悲しいですね。

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