売れるタイトル付けの方程式は存在するか? ~中公新書『人類の起源』から見る"ヒットの起源"~

あの本が売れてるワケ 若手営業社員が探ってみた 連載第10回
中央公論新社の若手営業社員が自社のヒット本の売れてるワケを探りつつ、自社本を紹介していく本企画。第10回は、中公新書『人類の起源』を題材に、新書のタイトル付けについて考えてみました。

ノーベル賞で注目!『人類の起源』

中公新書『人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」』は今年の2月刊で発売直後からかなり売れていました。それが今月4日、遺伝学者スバンテ・ペーボ氏が「絶滅した人類のゲノムと進化に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、再び注目を集め始めました。

各紙・TVは、「2022年のノーベル生理学・医学賞に「人類の進化」の研究者」(NHK)、「人類の進化を遺伝学的に解明」(毎日)、「古代人の血縁関係解明」(日経)、「人類学にDNA解析持ち込む」(読売)、「ノーベル賞 人類の起源に光当てた」(朝日)、という見出しでトップに報道。これは『人類の起源』に書かれている内容ズバリそのもの!しかもペーボ氏の本は当時日本では流通していなかったことから、「このニュースで興味を持った人が買うならこの本しかない!」ということで強く売り出し、版を重ねました。

中公新書編集部、仁義なき「タイトル会議」の内実

中公新書と言えば"教科書の太字がタイトルになる"というくらい直球のタイトル付けで有名ですが、「人類の起源」というと太字どころか歴史の教科書の章タイトルくらいデカいですね。

中公新書は刊行の2カ月前に、新書編集部と営業が集まって「タイトル会議」を行います。著者の意向と担当編集のアイデアを中心に全員で1からタイトルを考えるのですが、初めて参加したときは、あんなシンプルなタイトルを付けるに至るまでこんなに揉めるのかと大変驚きました。しかしシンプルであるがゆえに、「こんな誤解をされる可能性がある」、とか、「それ以外のこともかなり書いてあるのにタイトルに出さなきゃもったいない」、とか、「そのタイトルの本はもう他社が出してるぞ」、とか、とにかくすんなりいかないのが実情。毎回数時間に及ぶ侃々諤々の議論を経て決まることになります。

タイトルは本の顔であり、レーベルの顔。それだけで売り上げがかなり左右されることもあるし、なにより端的でかっこよくて内容が明瞭になるようなタイトル付けというのはものすごく難しい。これだけの時間をかけ、労力を傾ける価値のある作業なのです。

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