平山亜佐子 断髪とパンツーー男装に見る近代史 知的階級に「同性の愛」ブーム到来

第十回 知的階級に「同性の愛」ブーム到来
平山亜佐子

浅草の女将「お父さん」


 大正末期にはいよいよ「男装の麗人」と謳われた川島芳子がマスコミに登場するが、その前に、従来型の男装者も紹介しておこう。
 小野賢一郎『女、女、女』によれば、浅草にある「△の家」の女将は、散髪姿に鳥打帽をかぶり、着物も羽織も男もの、薩摩下駄を履いて外股で歩き、男の声で話したという。警察署に呼び出された際、名前が女性なので代理かと問われて本人だと答え、驚かれた。この女性はおかみさんと呼ぶと機嫌が悪くなるので、皆「お父さん」と呼んでいるとか。
 頭脳明晰、見番(料理屋・芸者屋・待合の三業組合の事務所)の世話役としても切れ者で、仲間同士のトラブルもどんどんさばく。
 最初は女中として雇われていたが、夫と死別してからだんだん男性らしくなり、男装してあぐらをかいて博打も打つようになったという。
 この場合は、仕事の都合上、男性の方がいいから始めたものだろうか。
 それとももともと素質があったのか。
 知識階級の女子の間に「エス」などの新しい関係が生まれる一方で、この女将、いやお父さんのようなタイプもいる、大正半ばの現状である。 


参考文献
赤枝香奈子『近代日本における女同士の親密な関係』角川学芸出版、2011年
小峰茂之、南孝夫『同性愛と同性心中の研究』小峰研究所、1985年
『20世紀アメリカ映画事典』カタログハウス、2002年
川添利基, 菅省三 編『泰西近代映画劇精通』聚芳閣、1924年
稲垣恭子『女学校と女学生』中公新書、2007年
「恐るべき同性の愛」1911年7月31日付読売新聞
「淺草の女」小野賢一郎『女、女、女』興成館、1915年
桑谷定逸「戦慄す可き女性間の顚倒性欲」『新公論』26(9)新公論社、1911年
R.V.クラフト=エビング 黒沢良臣 訳『変態性欲心理 近代日本のセクシュアリティ2 〈性〉をめぐる言説の変遷』ゆまに書房、2006年

平山亜佐子
挿話蒐集家/文筆家
1970年、兵庫県芦屋市生まれ。エディトリアルデザイナーを経て、明治大正昭和期のカルチャーや教科書に載らない女性を研究、執筆。著書に『20世紀 破天荒セレブ:ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝:莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)がある。なお、2011年に『純粋個人雑誌 趣味と実益』を創刊、第七號まで既刊。また、唄のユニット「2525稼業」のメンバーとしてオリジナル曲のほか、明治大正昭和の俗謡や国内外の民謡などを演奏している。
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