東電問題は東京と日本が直面する課題の縮図

田中直毅(国際公共政策研究センター理事長)

「3・11」の東北関東大震災を契機として、日本の抱える問題に結果としてメスが入れられることになるのではないか。
 われわれは、これまで日本の構造改革の必要性を熱く主張してきたが、実際のところ構造改革の持続は容易ではなかった。ところが、今回の大津波によって、東京電力の原子力発電所と火力発電所が大きく毀損し、東電の電力供給能力不足問題がそのまま東京における付加価値創造の根底を問う「東京問題」に直結するところから、否応なく構造改革に踏み出さざるをえなくなろう。ここから、東京問題は「日本問題」に直結しよう。

 この構図を、輪番停電(いわゆる計画停電)を切り口として見れば、輪番停電を不可避とする供給サイドの不安定化と、輪番停電の下において事業会社、そして働く人々の意識に大きな変化が生じたことが新しいと言わなければならない。

電力供給問題が生じた背景

 福島第一原子力発電所の非常用発電装置が津波で損傷し、重大な事態に至った背景には、どのような問題があったのだろうか。

 原子炉の冷却装置の、稼働の確実性確保の重要性については、事故後、専門家の誰もが指摘しており、電力会社内でもそのように認識していたはずである。しかし、冷却装置の予備電源の「多重化」については十分でなかったのだ。同じ場所に予備電源が二つあったとしても、今回のような地震や津波、あるいはテロ攻撃に対して極めて脆弱であることは、従来からわかっていた。予備電源の一つは原子力発電所の周辺に置くとしても、もう一つの予備電源は原発から離れた場所への設置によって安定性を担保すべきであった。こうした多重化は、すでに金融機関のデータベースの設置基準などに採り入れられている思想である。今日、事業の継続性確保が一般事業会社においても重要なテーマになりつつあるにもかかわらず、電力会社では十分な考察がなされていなかった可能性がある。

 また、使用済み核燃料の貯蔵プールでの保管についていえば、老朽化した原子力発電所の廃炉や、使用済み核燃料の処理問題について、日本は国家として十分な対応をしてこなかったといわねばならない。青森県六ヶ所村の使用済み核燃料再処理施設の貯蔵プールはすでに満杯に近づいており、原子力発電所の周辺にプール漬けの使用済み核燃料を置き続けることに関しては、本来は国家的な解が求められるべきであった。こうした出口、あるいは最終処理の段階でのボトルネックが、老朽原発の廃炉にかかわる問題を正面から取り上げにくくしてきた事情について、明瞭な調査報告書が作成されなければならないだろう。

 いずれにしろ、福島第一原子力発電所の能力が中長期的に損なわれる可能性が高くなったことから、東京電力の供給力不安は一挙に顕在化した。これにより、事故の三日後の三月十四日からは輪番停電の導入となった。

 東京電力の最大供給電力は、今回の震災直前には五二〇〇万キロワット程度あったが、震災直後は三一〇〇万キロワットにまで急減した。東京電力管内において、冷暖房の使用が少ない春の時点では最大四一〇〇万キロワット程度の需要で済むとされているが、酷暑の夏には、これまでもその一・五倍の六〇〇〇万キロワット程度にまで拡大している。地震と津波によって損なわれた東電の原子力発電所と火力発電所の能力が短期においては回復しないと考えるならば、そして今夏の経済活動が従来どおりのままという前提に立てば、電力需要は大幅に削減されねばならない可能性も出てくる。

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