東電問題は東京と日本が直面する課題の縮図

田中直毅(国際公共政策研究センター理事長)

東京一極集中を問い直す契機に

 こうした東京電力の供給能力不足は、即座に「東京問題」に直結せざるをえない。その結果として、東京の都市機能を純化し、東京に残すことが望ましい業務と、東京に残す必要が相対的に低い業務との仕分けが個々の事業会社において起きることはもはや避けられない。すなわち、個々の事業会社が、これまではともすれば放置してきた事業の継続性の維持という課題への取り組みにあたって、ネットワークを使った意思集約や経営能力の多重活用を旨とする新たな態勢の構築を迫られているのである。

 このことは、今回の震災によって大きく損なわれた東北地方の明日を考えるうえでも関連する重要なテーマである。これまでは東京圏に経済機能が集中し、非東京圏においては、経済活力の核になるものを十分用意できない#憾#うら#みがあった。しかし、今回明らかになったように、東京問題の解決のためには、事業会社が自ら業務の仕分けをごく短期間に行わなければならない。これを、東北地方の経済復興と直接結び付けることも可能である。今回は大震災の名称に「東北関東」という冠が付いたが、リストラクチャリング〈2014〉〈2014〉「リストラ」ではなく本来の意味での〈2014〉〈2014〉もまた、東北関東を一体とした広範な領域で行われる可能性が出てきたのである。

 そもそもこれまで、海外の諸都市と比較して、東京にはあまりにも多くのものが集中しすぎていたといえるだろう。金融機能ひとつとっても、東京という一都市にすべてが集中する仕組みは世界的には極めて異例である。

 ニューヨークやロンドンは東京と並んで大きな金融機能を保持しているが、例えばアセットマネジメント(資産管理会社)についていえば、米国においてはボストン、シアトルなど、また英国においてはエジンバラ等の快適な居住地域に投資家集団がいる。だからこそ、日本の事業会社のトップが自社の将来見通しや経営ビジョンの説明を行うIRのために訪れるのは、ニューヨーク、ロンドンもさることながら、日本流にいう「地方都市」も含まれるのである。

 日本の場合は、これがすべて東京のみで完結するのを便宜としてきた面もあるが、電力供給不足問題が顕在化した以上、例えばアセットマネジメント業務は、ことごとくといっていいほど東京を離れる可能性がある。

 これまで、こうしたことがなぜ現実に起きなかったのかといえば、例えば子弟の教育の面で、内外を問わず高収入・高学歴の両親が満足する、子弟を通わせる学校を見いだせないという点があった。しかし、特徴のある小学校や中学校、あるいは一貫教育の仕組みは、もはや日本においても不可欠とされているため、今回の震災の復興において、基本計画にそうした学校設立の許認可を合わせて議論すれば、子弟の教育面での制約がなくなる可能性がある。

 また、現在では夫婦とも定職に就いているケースが多く、東京を離れれば、伴侶の就業機会が乏しく移転は難しいという事情も個別には聞かれるところである。しかしこれも、復興の後に特徴のある都市づくりを行い、そこに法務サービス、会計サービス、データ分析会社等の組み合わせを誘致することは決して不可能ではないだろう。

 事業会社の多くも、ICT(情報通信技術)の革新的な進歩により、企画管理機能の一部、例えば戦略の構築、報酬体系の作成、営業態勢のシミュレーション等の機能を東京から出して非東京圏に移し、その結果を遠隔地であってもほぼ同時に手にする仕組みを構築することに全く不都合はないだろう。

 このように考えれば、今回の不幸から復興に立ち上がる際に、切り開かれた新しい日本像を提示することが重要であろう。

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