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橘玲 進化論がもたらす「知のパラダイム転換」 自然科学は人文・社会科学を呑み込むのか

橘 玲(作家・評論家)

これからのテクノロジー

――社会科学が自然科学に呑み込まれていく過程で、過去の言論が整理されると同時に、この先の社会のありようなども見えてきますか?

 テクノロジーは、人間を本質的に変えることはないと思います。

 あらゆる生き物は、心地よい状態に向かい、不快な状況を避けるように進化の過程でプログラムされていて、ヒトも例外ではありません。テクノロジーというのは、快を増やし、不快を減らす道具のことです。なぜなら、それ以外のものは、たとえ開発されたとしても選択されなかったから。そうやって、現在の快適な文明がつくられてきたわけです。

 アメリカではフェイスブックが批判されていますが、ユーザーの脳の報酬系をハックするように最初から設計したわけではなく、みんなが求めるものをつくっていったら今のような形になったのでしょう。

 問題は、短期的な利益と長期的な利益が対立することで、短期的な心地よさを最大化すると、長期的な利益を損ない、しばしば人生を破壊してしまう。やっかいな事態ですが、これはテクノロジーが人間を支配しているのではなく、人間の欲望を最大化した結果です。

 人間が何を求めるのか考えると、最後には、ロボット工学博士のピーター・スコット=モーガンのようになっていくのではないでしょうか。彼はALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断され、自身をAIと融合させることでサイボーグ化したのですが、もはや「永遠の命」に近づきつつある感じです。

――SF的なテクノロジーもある程度は実装できる部分があるけれど、そこにもやはり進化論的な制約がつきまとうわけですよね。

 そうですね。ただ、現実がメタバース(仮想の三次元空間)に代替されていったらどうなるのかは興味があります。そこでは、あらゆる物理的な制約をなくして、私たちが本当に求める世界が実現できるかもしれない。

 進化論的に言えば、人々が心の底から望むのは「自分が主人公になれる物語」でしょう。しかし現実には、ほとんどの人が「自分らしく」生きられない。

 この夢を実現すべく、いずれAIが、すべてのユーザーが主人公になれる78億のメタバースを生み出すのではないかと予想しています。

構成:須藤輝

橘 玲(作家・評論家)
〔たちばなあきら〕
1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『永遠の旅行者』『朝日ぎらい』『スピリチュアルズ』『無理ゲー社会』など著書多数。『言ってはいけない』で新書大賞2017受賞。

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