「英文法」動画を配信していた学習塾講師がなぜ「デマ動画」に手を染めたのか。大統領選、ワクチン、芸能人の自殺...「ゲーム実況」などから、くら替えするチャンネルが続出したワケ

情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部

視聴者の年齢層は65歳以上が約5

21年2月、男性が明かしていた勤務先の学習塾に電話し、取材を申し込むと、男性は匿名を条件にオンラインで応じた。

「最初は英文法を解説するチャンネルだったんです」

男性は20代。20年春頃から動画配信を始めたが、再生回数は数十回と低迷していた。英語教育は有名なチャンネルがたくさんあり、勝ち目がないと感じていた。そんな時、大統領選の「不正疑惑」がネット上で拡散しているのを知った。

9784120055928.PT01.jpg『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部/中央公論新社)

それなりに知名度がある何人かの評論家が、ユーチューブで「アメリカで問題になっている」として様々な「不正の証拠」を紹介し、「本当はトランプ氏が勝った」と主張していた。男性は、そこで仕入れたネタを自身のチャンネルで話してみた。軽い気持ちで試したつもりだったが、反応を見て驚いた。再生回数が急上昇し、100倍以上になったのだ。

「どちらかと言うと僕はバイデンに好感を持っていましたが、他の人の動画を見ていると、トランプを応援しバイデンを叩くと再生回数が稼げることに気付いたんです。不純な動機ですよね」

ユーチューブは主に広告で運営されており、発信者は再生回数に応じて広告収入を得られる。まとめサイトと同様、注目を集めれば集めるほどカネが入る仕組みになっている。

男性はその後、他人のユーチューブ動画やまとめサイト、トランプ氏の主張に同調する英語のサイトなどを参考にし、自分なりにアレンジを加えて発信を続けた。再生回数はさらに上昇し、10万回を超えることもあった。いつの間にか、男性自身も大規模不正があったという主張を信じ込むようになっていた。

ユーチューブの配信者は、視聴者の年齢層を把握できる仕組みになっている。男性の場合、65歳以上が約5割、5564歳が約3割、残りも大半が45歳以上で、男女別では男性が多い。「なぜ年配の方にうけるのか。よくわからない」と首をかしげつつも、高齢者向けにタイトルの文字を大きくしているという。

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