「英文法」動画を配信していた学習塾講師がなぜ「デマ動画」に手を染めたのか。大統領選、ワクチン、芸能人の自殺...「ゲーム実況」などから、くら替えするチャンネルが続出したワケ

情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部

「即席評論家」が次々に誕生

神社巡りのチャンネルで発信していた男性は突然、「海外のセレブやエリート層が子どもを誘拐し、子どもの血を飲んで若返っている」「その勢力とトランプさんが戦っている」といった動画を頻繁に配信するようになった。米国でトランプ支持者らを過激化させた「Qアノン」の言説をまねたような内容だったが、動画の中では「極秘事項」などと説明しており、一気に再生回数を伸ばした。

芸能人の自殺に便乗する動きも相次いだ。特に目立っていたのは、前年の7月に亡くなった俳優の三浦春馬さんの死を巡り、「他殺説」を唱える動画だった。 

根拠のない情報をさらに脚色し、「海外の闇の組織に消された」と主張するものが多かった。Qアノンと関連させ、「三浦さんもトランプさんのように海外のディープステートと戦っていた」といった荒唐無稽な内容を執拗に配信するチャンネルもあったが、コメント欄は「勇気のある配信に感謝」「真実がわかりました」などと賛同するコメントで埋め尽くされている。

誰もが事情通かのように振る舞え、驚きのある話で注目を集めれば何万、何十万単位の視聴者を獲得できてしまうユーチューブの世界。事実は置き去りにされたまま、稼げそうなネタに群がる「即席評論家」が次々に生まれていた。


『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部/中央公論新社)

米大統領選→コロナワクチン→ウクライナ侵攻、次々に連鎖する陰謀論。誤情報をネットで流布する匿名の発信者を追い、デマに翻弄される人々の声を聞く――。高度化する"嘘"の裏側に迫るドキュメント。『読売新聞』長期連載「虚実のはざま」、待望の書籍化。

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