「英文法」動画を配信していた学習塾講師がなぜ「デマ動画」に手を染めたのか。大統領選、ワクチン、芸能人の自殺...「ゲーム実況」などから、くら替えするチャンネルが続出したワケ

情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部

大統領選だけではなく、新型コロナの陰謀論まで

しかし、1か月ほどで大統領選の話題を扱うのをきっぱりやめたという。

「そもそも私は、話半分で聞いてもらうつもりで流していた。うのみにするほうがおかしいんですよ。それなのに本気で信じるようなコメントが増えて、少し怖くなったんです」

塾長が動画で過激な主張を控えると、視聴者から「不正は間違いない」「弱腰になるな」と怒ったようなコメントも来たという。

塾長は、配信内容を以前のような学習動画に戻した。私たちが確認すると、一時は最高9万回まで伸びた再生回数は、数百回程度に落ち込んでいた。

21年に入ると、大統領選だけではなく、新型コロナの陰謀論を流布するユーチューブ動画があふれる状況になった。

背景には、塾の講師や経営者らのように畑違いの内容からの「くら替え」がある。取材班で調べて確認できたものだけでも、「健康法」「筋トレ」「ゲーム実況」などから内容を変更したチャンネルが30以上あり、中には分析ツールの計測で推計収入が月100万円に達するものもあった。 

ミュージシャンの男性は以前、自分が街を巡る様子を撮影した動画を配信していたが、

「コロナワクチンにはマイクロチップが入っている」「人類を管理し、人口削減するのが狙いだ」といった陰謀論を語るようになった。理由は「コロナでライブができず、音楽で稼げないから」だったという。

数百人程度だった登録者は5万人を超えた。男性は取材に対し「私の信念に基づいて話している」と強調したが、情報を得る主な手段を尋ねると「ネット検索だ」と答えた。

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