「英文法」動画を配信していた学習塾講師がなぜ「デマ動画」に手を染めたのか。大統領選、ワクチン、芸能人の自殺...「ゲーム実況」などから、くら替えするチャンネルが続出したワケ

情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部

チャンネルで大統領選の動画を流すのは「儲かる」から

選挙不正の動画配信でどれほど収入があるのか。

「趣味半分、金もうけ半分でやってます。まあ、毎月、新卒社員の初任給ほどは入ってきますよ」。男性はニヤリと笑った。

塾の関係者で同じような動画を流している人は他にもいた。

東京都内で別の塾を経営する男性が開設しているチャンネルも、元々は日本史や世界史の学習動画を配信していた。塾のウェブサイトには「熱血指導 小5~中3」「最後まであきらめるな」などと書かれている。

私たちは21年3月に塾を訪ね、塾長だという30代の男性に取材を申し込んだ。黒っぽいスーツを着た塾長は驚いた表情で「答えられない」と繰り返し、入り口のドアを閉めた。授業が始まる前の時間帯で、生徒らはいなかったが、男性は落ち着かない様子で警戒しているようだった。

しかし、塾から出てきたところで再び声をかけ、「大統領選の動画を流す目的を聞きたい」と取材の趣旨を伝えると、会話をしているうちにいくぶん警戒心が和らいだのだろうか。「じゃあ質問に答えます」と言い、私たちを塾の中に招き入れた。

塾長は動機を隠しもしなかった。

「ネットで広がっていたので、稼げると思ったからですよ」

塾長は動画の中で「大統領選でバイデン票に死者がカウントされている。これは絶対怪しい」などと主張していた。歴史の学習動画と比べると、やはり再生回数は飛躍的に伸びたという。

【2章10】2021年1月24日から計5回読売新聞に掲載された連載「虚実のはざま」の第1部「海越える拡散」の記事(大阪本社版).JPG2021年1月24日から計5回読売新聞に掲載された連載「虚実のはざま」の第1部「海越える拡散」の記事〈大阪本社版〉(画像提供:読売新聞大阪本社社会部)

塾のサイトには「偏差値さえ上がれば、それで満足する塾ではない」「道徳教育に関しては、徹底的に指導していく」と記されている。子どもや保護者からは頼りにされているのだろう。そんな教育者の一人が、動画ではいったい何を根拠に話していたのか。

塾長はあっけらかんと答えた。

「知らない人からツイッターのダイレクトメッセージでいろいろ情報が送られてきたんですよ。それで私も『こんなおかしな話がいろいろあるんだな』と思って、他人の説を動画で紹介しただけ。真偽確認? 私は専門家でもないし、やってませんよ」

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