「英文法」動画を配信していた学習塾講師がなぜ「デマ動画」に手を染めたのか。大統領選、ワクチン、芸能人の自殺...「ゲーム実況」などから、くら替えするチャンネルが続出したワケ

情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体
読売新聞大阪本社社会部
塾講師の男性が発信するユーチューブ動画。ホワイトボードに「DS」などと記し、事情通かのように解説している(写真提供:読売新聞大阪本社社会部 ※画像は一部修整しています)
2020年のコロナ禍で行われた米大統領選。トランプ氏やバイデン氏に関するデマや陰謀論が飛び交い社会を混乱させた事は記憶に新しい。しかし、その発信源にはアメリカだけではなく、この日本も含まれていたのはご存じだろうか。YouTube上で多く閲覧された陰謀論動画について読売新聞取材班が調べてみれば、配信主は意外な人物で――。

※本稿は、『情報パンデミック――あなたを惑わすものの正体』(著:読売新聞大阪本社社会部)の一部を抜粋・再編集したものです

「くら替え」で再生回数急上昇

大統領選の直後、ユーチューブでは「隠された真実を語る」などと称した動画を流すチャンネルが急増していた。

〈ディープステートの巣窟〉
〈最高裁、腐敗が確定〉

こんなタイトルの動画を連日配信していたチャンネルもその一つだった。クリックすると、めがねをかけた男性が熱っぽく語る動画が再生される。

ディープステートを「DS」と略称で呼び、大統領選で「大規模にDSが関与」などと、あたかも真実であるかのように力説するが、根拠に乏しく、米国の裁判所でも認められていない内容だった。 

2021年2月にミャンマーでクーデターが起き、国軍にアウン・サン・スー・チー氏が拘束されると、その後に配信した動画で「DSが逮捕されました」と、スー・チー氏がその一員だという荒唐無稽な説を述べた。そして、国軍のクーデターの裏には、大統領選を不正に操作したDSに対し、トランプ氏が逆襲する動きがあるという話を真顔で力説していた。

動画を見ると毎回、その日に話す内容がホワイトボードにびっしり書き込まれている。ホワイトボードを背に、順を追って指さしながら説明する様子は、まるで授業を進めているようだ。緩急をつけた話し方で、言葉は聞き取りやすい。実は、子どもに英語を教える塾講師が本業だという。

なぜ、大統領選の動画を流すようになったのか。

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