河合 薫×常見陽平「〝不適切〟な昭和から〝コンプライアンス〟の令和へ――職く環境は本当に良くなったのか?」

河合 薫(健康社会学者)×常見陽平(千葉商科大学准教授)
常見陽平氏(左)、河合 薫氏(右)
 ドラマ「不適切にもほどがある!」でも話題になった、昭和と令和のギャップ。健康社会学者の河合薫さんと、働き方評論家の常見陽平さんが、セクハラ、パワハラ、コンプライアンスなどをキーワードに、ここ30~40年間の職場の変化について語り合った。令和の職場は本当にアップデートできているのか?
(『中央公論』2024年6月号より抜粋)

昭和を描くドラマに違和感あり

常見 主人公が昭和61(1986)年から現代にタイムトリップするテレビドラマ「不適切にもほどがある!」(1~3月放送。TBS系)が話題になりました。職場でタバコを吸っていたり、「スピーチとスカートは短いほうがいい」みたいなセリフが出てきたり、細かい昭和の描写は懐かしく見ましたが、私は正直、もやもやする点も多かったです。


河合 私は、時代の雰囲気をよく描写しているなと思って見ていました。昭和の歌謡曲の歌詞って、あんなにひどかった? なんて。


常見 ドラマを見た人が「令和はコンプライアンスがうるさいから、昭和がよかった」といった雑な議論をするのが嫌でした。令和になってコンプライアンスが重視され、人権が尊重される社会になったかと言うと、あくまでポーズであって、実際はそうでもない。また終盤に主人公が昭和の子どもたちに、「これからは多様性が尊重されるいい社会が来る」みたいなスピーチをするのですが、確かに変わってよかったことも多いけれど、昭和の同質的社会は根強く続いていて今も息苦しいんだよな、とか。エンタメだし、そこまで深く考える必要はないのでしょうけど。


河合 あのドラマには、昭和・平成・令和を生きてきた私たち世代から現代の若者への応援歌のような意味も込められている気がしました。現代で生きづらさを感じている若者たちに、「もう少しゆるくやってもいいんだよ」と。コンプライアンスは忘れてはいけないけれど、「もっと自由にやっていいんだよ」と。

 ドラマの話にからめて私の体験を話すと、私は昭和の終わり、1988年にANAの客室乗務員(CA)になったのですが、当時は国際線に喫煙席があり、CAは席まで行って灰皿の吸い殻をピンセットで取って掃除するという地獄のような仕事がありました。時代ですね......。最初はくだらないと思ったけれど、だんだん吸い殻掃除がお客様とスポットコミュニケーションがとれるいい機会だと思えるようになりました。一見無駄に思える仕事にもいい面はある、そんなことも思い出しました。

 ただ、一部の厄介な人たちのハラスメントは本当に嫌だったので、それがなくなったのはよかったと思います。

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