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谷川嘉浩 異世界系ウェブ小説と「透明な言葉」の時代

谷川嘉浩(京都市立芸術大学特任講師)
 異世界ものコンテンツに見られる長くて特殊なタイトルは今、冷凍食品やコンビニ商品にも浸透しつつある。その特徴は、「看板」の役割を果たすだけでなく、内容をも語り示す「透明性」にあるという。京都市立芸術大学特任講師の谷川嘉浩さんが論じる。
(『中央公論』2022年2月号より抜粋)

国民文学としての「異世界もの」?

 ゼネコン勤めの37歳独身男性の三上悟は通り魔に刺され、薄れゆく意識の中で無機質な声を聞く。次に意識を取り戻したとき、自分が異世界でスライムという魔物に生まれ変わっていることに気づいた。

 カタリナは、家柄のよさと親の溺愛で高慢な少女となったが、転倒した際に現代社会で女子高生だったときの記憶を思い出し、今生きているのが、当時遊んだ乙女ゲームの世界であり、ゲーム内で破滅へと向かう悪役が自分であることを悟る。

 それぞれ、2013年と14年に小説投稿サイト「小説家になろう」から生まれた『転生したらスライムだった件』(以下『転スラ』)と、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった...』(以下『はめふら』)の冒頭である。どちらも、書籍化・漫画化・アニメ化・映画化・ゲーム化などのメディア横断的な一連のコンテンツであり、この種の設定で始まる物語は「異世界(転生)もの」などと呼ばれる。

『転スラ』はシリーズ累計2700万部、『はめふら』は同500万部を突破している。部数だけで考えれば、かつてなら「国民文学」と呼ばれていただろう影響半径を持っている。とはいえ異世界ものは、主人公が極端な優位性を持っていたり、誰かにちやほやされがちだったり、ご都合主義的展開だったり、考証が甘かったりなどの特徴を持つため、苦言を呈する人は少なくない。

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