谷川嘉浩 異世界系ウェブ小説と「透明な言葉」の時代

谷川嘉浩(京都市立芸術大学特任講師)

冷凍食品、コンビニ商品の透明性

 具体的な話に入る前に断っておくことがある。私たちは、歴史的経緯や因果関係に注意を払うわけではないということだ。ウェブ小説について言えば、ウェブ掲示板の話法やライトノベルの書名などの、属性を組み合わせて長文を書く文化が、あの饒舌な文体を育んだのだろう。しかし、こうした原因論を展開することがこの文章の目的ではない。

 むしろ、この種の「どういう属性の何がどうなったか」と中身を説明する言葉遣いを外面に出す〈理由〉に目を向けたい。ここで明らかにされるのは、透明な言葉遣いが果たす機能や役割である。というのも、ネットカルチャーとは直接関係がなさそうな領域にも、この種の話法は浸透しており、そうした検討を要するように思われるからだ。

 例えば、私が偏愛する「焦がしにんにくのマー油と葱油が香る、ザ・チャーハン」という味の素の冷凍食品がある。これは、商品名やパッケージという「表面」から、成分表のような「内容」を透かし見る体験を提示していると言えるだろう。

 セブン-イレブンには「肉と野菜のうま味をバランス良く合わせた厚切りポテト」「お米でできたやさしい食感のふんわり揚げえび味」などの商品がある。内容を先取りするように明け透けに見せる言葉遣いで外側を飾り付けている。

 SNS上で異世界ものを連想させるとして話題になった商品もある。ファミリーマートの「はじめは濃厚チーズなのにだんだんなめらかショコラきわだつショコラチーズケーキ」である。『悪役令嬢なのに攻略対象から溺愛されています』『無能と呼ばれた俺、テイムスキルが目覚めて最強になる』などの作品を挙げながら、構文の類似性を指摘する向きもあるが、要点は構文そのものというより、内側を透かし見せる言葉遣いにあると言うべきだろう。

 異世界ものに典型的に見られる透明な言葉は、特定ジャンルの特殊な語法に過ぎないのではなく、一種の時代の要請なのだろう。そして、そもそもなぜそのような饒舌さが必要とされているかを理解する上で、異世界ものは良い手引きとなる。

1  2  3  4  5  6  7