《追悼 益川敏英さん》【後編】若者が科学に夢を持てる国に

益川敏英/聞き手・竹内 薫(科学作家)

「戦争はなくなる」と予言する根拠

竹内 200年すれば戦争はなくなるというのが持論だそうですね。大変ユニークだと思いました。


益川 それは僕の歴史観みたいなものです。仲間内から「益川は正気か」と言われますけれども。
 100年単位の長い目で見てみれば、何度か揺り戻しはあるにしても、歴史は一定の流れを示しています。
 19世紀までは戦争がなくなるなんて想像もされなかったが、今では少なくとも話題にはなっている。戦争はよくないという価値観が現れ、できればやめたほうがいいと多くの人が考えるようになった。
 そうである以上、時間はかかるにしても、歴史はその方向に動いて、いつか戦争はなくなるだろうと思う。
 戦争の原因の一つは植民地の問題です。第二次世界大戦が終わったとき、地球上にまだたくさんあった植民地は、その後徐々に減っていった。こんにちでも経済的に不利な立場に置かれた国はあるけれども、形式的には植民地はもうない。
 戦争がなくてもやっていける基盤が、こんにちの社会ではできている。戦争なんてないほうがいいという認識が広まり、非常に戦争がしにくい社会になってきた。戦争の火種はまだ残っているけれども、それらが解消されるまで100年ぐらいではないだろうか。


竹内 200年と言うと、あとの100年は何でしょうか?


益川 フランス革命のときも、共和政になったり、王政に戻ったりという揺り戻しがあった。そういう揺り戻しの時間は見ておく必要があるだろう。そのぶんを加味しても、トータルで200年見ておけば十分だと思う。
 一人一人の人間は、愚かだったり弱かったりするかもしれない。しかし、人類全体の英知というものは実に素晴らしい。それぐらいのことは実現していってくれると僕は信じている。
「そんなことを言っても、益川は200年後に生きていないからな」と憎まれ口を言う友人がいる。言われっぱなしも悔しいから、「22世紀中に戦争は必ず根絶する」と証文でも書いて残そうかと思う。我が子孫はこの予言が実現するのを見届けよ、と遺言してね。

〔2010年5月26日、京都産業大学にて収録〕

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