《追悼 益川敏英さん》【後編】若者が科学に夢を持てる国に

益川敏英/聞き手・竹内 薫(科学作家)

インタビューを終えて

 とにかく驚かされたのが、益川研究室の本棚である。そのほとんどが数学の本だったのだ。


 人の頭の中身を推測するには、その人の本棚を覗けばいい。益川先生の頭の中は、ほとんどが「数学」なのだ。実際、ご本人は、半ば冗談めかして、「数学は私にとってはエンタテインメント」というようなことをおっしゃっていた。つまり、気晴らしに小説を読むような感覚で、「数学の本の虫」なのだそうだ。


 研究室を訪れる客人がみな、「仕事の本ばかりですね」という感想を洩らすそうだが、実は物理学の本はほとんどない。「物理学は本職だから、他人の本を読む必要なんかない」のだそうだ(もちろん、専門論文は読まれるのだろうが)。


 どこまで本気で、どこまでが冗談だかわからない「益川節」は健在であった。先生、楽しいインタビューをありがとうございました!(竹内)

(『中央公論』2010年8月号より)

益川敏英/聞き手・竹内 薫(科学作家)
◆益川敏英〔ますかわとしひで〕
1940年、愛知県名古屋市生まれ。名古屋大学理学部卒業後、同大学大学院理学研究科に進み、理学博士を取得。東京大学原子核研究所助教授、京都大学基礎物理学研究所教授、京都産業大学理学部教授、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長・特別教授などを歴任。京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授。若手研究者育成を目的に京都産業大学が設立した「益川塾」の塾頭を務めた。2021年7月23日死去。

◆竹内 薫〔科学作家〕
たけうちかおる 1960年、東京都生まれ。東京大学教養学部および理学部を卒業後、カナダのマギル大学大学院に進み、理学博士(Ph.D.)を取得。科学全般にわたる多彩な著述活動を展開し、テレビやラジオでも活躍中。日本語、英語、プログラミング言語を中核に据えたフリースクール「YESインターナショナルスクール」(横浜校、東京校)を開校し、校長を務める。
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