ヒット作は狙って出せるのか!? ~売れるきっかけ作りの努力と、『女人入眼』『幸村を討て』にみる歴史小説の可能性~

あの本が売れてるワケ 若手営業社員が探ってみた

ターゲットを絞り囲い込む③

~アベンジャーズと「十二国記」の大成功~

「おもしろい」の担保、という意味では同じ著者のもの、とりわけシリーズものというのは安心安全です。一度ハマらせてしまえばこっちのもの。映像作品ですが最近個人的に大変な沼にハマらされてしまった(誉め言葉)と感じたのは、マーベルコミックのアベンジャーズシリーズ。これには2つの重要な戦略があって、一つ目は人気絶頂のタイミングでサブスクリプションサービス「ディズニー+」でしか見られないドラマを作成、その後に一般公開される映画にもオリジナルドラマの情報が必要なようにストーリーを作るという、とんでもないビジネスモデルを作り上げたこと。そしてもう一つは、パラレルワールドの設定を導入することより、全く関係ないと思われていた過去の作品(たとえば旧作の「スパイダーマン」や「X-MEN」「ファンタスティック4」など)のキャラクターを登場させるという"禁じ手"を実現したこと。これでそっちのファンをも取り込んだのでは、と思います。
本でもこれができたらなあと思うのですが...。

と思っていたところ、新潮社の超人気シリーズ、小野不由美さんの「十二国記」の「30周年記念ガイドブック」が発売されるというニュースが飛び込んできました!まず著者のデビュー周年ではなくシリーズの周年というのが企画できる時点で、シリーズ自体の人気がうかがい知れるというもの。先述の「没後/生誕〇年企画」の例を考えると、「完結〇周年」もあり得そうですね。
そして今回、書籍化されていない"幻の短篇"を特別収録するということで、"とにかく「十二国記」関連のものはなんでも買う"という第一コアファン層から、"全部読んではいる"くらいの第二コアファン層まで購買層を広げました。さらに、「ガイドブック」というネーミング。「収録されるコンテンツは順次発表」となっているのであくまで私個人の予想ですが、初めて「十二国記」を知る人へのガイドにもなっているのではないでしょうか。そうなると"なんだか「十二国記」というシリーズがあるらしい。読んでないけど気にはなっている"というライト未ファン層にまでアプローチできるということに。あらゆるファンを巻き込んで大きくなっていく、というスタイルの力強さに心を打たれました。

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