まもなくAIを使って自己表現するのが当たり前になる。AIに「創作支援」してもらう際、必要になるものとは?

人工知能はウソをつく【第4回】
清水亮

「砂漠の真ん中でのキャンプ」が流行している理由

AIが今すぐ解決するのは、例えば高度に専門的な能力だったり、単純作業だったりする。しかし、仕事というのは、それが仕事としての必然性を失うと、レジャーになる。

かつて自動車も鉄道もない時代、山を登るのはどうしても必要なこと、つまり仕事だった。今、仕事で山を登る人は少ない。休日の楽しみとして登る人の方が圧倒的に多いはずだ。

筆者はネバダ州の砂漠や、アブダビの砂漠に出かけたことが何度かある。その度に、「なぜ昔の人々は、こんなに辛い想いをして、何もない砂漠を渡って別のところに行こうとしたのだろうか」と想いを馳せる。

馬やラクダがあったとしても、暑い中を何日も移動しなければならないのは大変な労苦だったはずだ。それでも、人々は移動を続けた。それは、人間の持つ想像力と好奇心の賜物だろう。

砂漠で夜を過ごすなんて、やったことのない人間からすれば恐ろしいが、最近のアラブでは砂漠の真ん中でキャンプするのが流行っているのだという。

その「キャンプ」は日本人が普通に思い浮かべるキャンプとは全く違う。

まず、舗装されていない道路を走るので、タイヤの空気を抜く必要がある。帰りに舗装路に来たらタイヤの空気を入れなければならないので、空気入れを持っていく。当然、ガソリンスタンドなどないので、何日か分のガソリンをポリタンクに入れて準備する。

車も中途半端なものではすぐ壊れてしまうので、現地ではキャンプをしようと思ったらまずトヨタのランドクルーザーを買うのだそうだ。随分、手間とお金のかかる話である。

ネバダ州とカリフォルニア州の県境にある砂漠、デスバレーは有名な観光地だが、ここにも舗装されてない道を通らないと辿り着けない場所がある。

試しに空気の入ったタイヤで挑戦してみたが、舗装されてない砂漠では車が常に横滑りしてしまい、真っ直ぐ前に走らない。さりとて、レンタカーにそんな荒っぽいことをすることもできないので、泣く泣く断念した。

いつか砂漠でキャンプをしてみるというのが今は筆者の夢になったのだが、一度くらいはそれを経験してみたいと考えるのは、普段それをする必要性がないほど暮らしが安定しているからだ。

AIは果たして筆者と同じように、砂漠でキャンプをしてみたいと思うようになるだろうか?

もし「やってみたい」と答えるAIがいたら、そのAIは嘘をついている。AIは何かをやってみたいという気持ちを持つことは決してないだろう。

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清水亮

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清水亮
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。『教養としてのプログラミング講座』(中央公論新社)など著書多数。
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