今夏の「はだしのゲン現象」を夏の終わりに振り返る

若手社員の いま気になるあの本

「わしゃ何回でも営業をしてみんなにみせてやるわい」

このような書籍を扱う出版社の営業として、何ができるだろうか。

『はだしのゲン』に対しては様々な感想がある。反戦・反核であるから良い。いや、作中の政治的な表現はあまりにナイーブだ。偏向だ。事実誤認もあるのではないか。いやいや政治的なものを差し引いて、漫画としていいのだ。そんなまさか、表現はあまりに露骨すぎやしないか......

僕はこうした様々な感想が、議論へと発展して初めて文化は豊かになっていくと考えている。出版業界とは、国内の文化事業を支える一つの大きな社会であることを、実際に弊社に入社した数ヵ月で知った。営業の一員としては、一つの書籍が広大な議論の空間を開き、文化に寄与する『はだしのゲン』のような書籍を営業していきたい。

もちろん、出版社は営利団体だ。文化事業の一つを支える団体でありながら、業務の全てを慈善活動にしてしまうことはできない。だからこそ今年の「はだしのゲン現象」は、出版社にとっても文化にとっても非常に幸運な一現象だったと思える。

来年の夏になれば、再び『はだしのゲン』の季節がやってくる。そのとき、あなたの住む家の、近くの書店の本棚の一角に『はだしのゲン』を置いてもらうために、僕は「わしゃ何回でも営業をしてみんなにみせてやるわい」と、この夏の終わりからすでに威勢がいいのだ。(文・C)

はだしのゲン

中沢 啓治

作品完成から30余年を経た今でも、日本のみならず世界20カ国以上で読み継がれる、反戦マンガの決定版。ヒロシマに投下された原子爆弾による自らの被爆体験をもとに、強く明るく生きる少年・中岡元の姿を通して、原爆の恐ろしさ、命の尊さ、そして平和への強い願いが込められた名作。

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