小林「武蔵」の「放言」と、大岡「老兵」の復員(下)
【連載第五回】
平山周吉(ひらやま・しゅうきち)
創刊号に掲載された中原中也の未発表詩篇
大岡が登場した折りでもあるので、「創元」創刊号の本文目次の五つの作品の中で、いまだ触れていない作品について、書いておこう。中原中也の「詩(四篇)」である。未発表のままだった「昏睡」「いちぢくの葉」「夜明け」「朝」が掲載されている。目次の並びでいうと「モオツァルト」と島木健作の遺作小説「土地」に挟まれている。
「亡びてしまつたのは/僕の心であつたらうか/亡びてしまつたのは/僕の夢であつたらうか」で始まる昭和九年の「昏睡」を、大岡は「不吉の作品」とする(角川書店版『中原中也全集』第四巻解説)。「記憶といふものが/もうまるでない」、「何ももう要求がないといふことは/もう生きてゐては悪いといふことのやうな気もする」というフレーズを引いて。大岡の解説をもう少し引用する。
「小林は昭和九年以来、中原の詩の文壇への推薦者であった。「文學界」八月号に「骨」を紹介した。『山羊の歌』の文圃堂出版は青山二郎のサロンで自然に湧いた話だが、無論小林の賛成があって成立したのである。(略)それでも中原の怨恨は解けなかったのである。(略)その文壇的出世に対して中原は不断の嫉妬の情念に駆られていた。中原の遺稿の中に、こういう怨恨の句を探せば、厖大な量に上るだろう」