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佐々江賢一郎 「反撃能力」を導入し「核戦力共有」の議論を

佐々江賢一郎(日本国際問題研究所理事長)
佐々江賢一郎氏
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」座長を務める佐々江賢一郎・元駐米大使が、11月22日、岸田文雄首相へ防衛力強化に関する報告書を提出した。報告書では防衛力は不可欠だと明記されている。佐々江氏は『中央公論』2022年7月号で自身の考えを論じていた。
(『中央公論』2022年7月号より抜粋)

 ロシアによるウクライナ侵攻は、世界全体の秩序にかかわる問題としてとらえる必要がある。国際法を破って他国を侵略し、既成事実を作るようなことが常態化すれば、話し合いや自制は建前に過ぎず、武力で制圧すれば何とかなるという世界になる。ウクライナ、ヨーロッパにとどまらず、アジアやインド太平洋地域をも大きく揺るがす。

 ウクライナでの戦闘は泥沼化し、凄惨な犠牲が日々拡大している。このために「ウクライナは早く白旗を上げた方が楽になれる」といった議論も一部に出ている。今、ロシアに白旗を上げてしまえば、力のある者がない者を従属させるという、暗くて耐え難い「苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)」の日常が子々孫々まで続くことへの想像力が足りない。

 なぜウクライナ人がここまで犠牲を払って徹底抗戦を続けているのかをよく考える必要がある。日本は米国に戦争で敗れ、独立が奪われた時期もあったが、幸いなことにロシアのような国に支配されることはなかった。一方、ウクライナは歴史上、何度も侵略され、辛い目に遭ってきた。再びそうならないために、ロシアと戦わざるを得ない。自由、独立という人間の存在の基本が失われても、単に経済的に生きながらえていればいいということにはなり得ない。ベトナム建国の父ホー・チ・ミンは「独立と自由ほど尊いものはない」と言ったが、そのことをウクライナ人は身に沁みてわかっている。

 日本に限らず、世界全体がロシアの暴挙に慣らされてきた。

 ロシアはこれまでもジョージアなどに侵攻を繰り返し、2014年にはウクライナのクリミア半島を併合までした。日本はG7(先進7ヵ国)の一員として制裁に加わったが、厳しい対応は持続せず、侵攻の結果の既成事実化が進んだ。まさにプーチンが望む通りの展開だった。

 欧米や日本は今回、ロシアに対する厳しい経済制裁で足並みをそろえた。制裁はエネルギーや食糧の価格高騰など世界経済に厳しいインパクトをもたらし、国民生活にも影響が及ぶだろう。では、制裁をしなければいい世界になっていくかといえば、逆に悪い世界になっていく可能性が高い。悪者が跋扈し、力がものを言う暗い世界の到来だ。

 実は、そういう時代はすでに来つつあると私は思っている。例えば中国は、経済力や軍事力で威圧する世界へと向かっている。それを許容していけば、物価高など当面の生活へのインパクトを超えて、より深刻な状況が訪れる。

 ロシアの侵攻の追認は、世界秩序の崩壊につながっていく。そのことを、政治家やメディアは繰り返し国民に説明していく必要がある。

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