佐々江賢一郎 「反撃能力」を導入し「核戦力共有」の議論を

佐々江賢一郎(日本国際問題研究所理事長)

停戦後も曲折続く可能性

 プーチンとの対話の窓はまだ開いていると思う。プーチンの考え方の根本は、力の重視だ。有利な条件を作った上で交渉したい、弱い立場で交渉したくないと思っている。ウクライナ東部・南部での戦闘行動で優位に立ち、2014年に併合したクリミア半島と同じような特別な地位に持っていくことが視野に入ってくれば、交渉に入る可能性が出てくる。

 西側諸国はウクライナが一方的にやられてしまう前に支援し、プーチンに対して「これ以上やれば傷が大きい。このあたりが限界だ」と判断させる必要がある。

 戦闘の均衡点、あるいは停戦の機運が見えてくるまでにはなお時間がかかる。仮に停戦が実現しても、後に続く和平交渉やウクライナの基本的な地位をめぐる議論は、長く熾烈なプロセスになるだろう。

 まず、安全保障をどうやって担保するか。ウクライナは、ロシアが二度と侵攻しないという保証が必要だと言うだろう。一方、ロシアは、ウクライナがNATOに加盟しないと言いながら、NATO諸国が引き続き軍事的支援をして、いざとなったらNATO軍が加勢に来るようでは、加盟しているのと同じではないかと主張するだろう。

 そこまで話が具体的に進んだ場合でも、ロシアは経済制裁の解除を求めてくる。だが、西側諸国は簡単に応じるわけにはいかない。ロシアが停戦に合意しても、実施するかどうかは別だから、解除するにしても段階的に、という議論になるかもしれない。

 合意の内容にウクライナ国民が納得し、議会が承認するかどうかという問題も出てくる。日露戦争で日本は勝利したが、講和条約に反対する人々による焼き打ち事件が起きた。ウクライナでも「ロシアを負かしたのに、こんな合意は屈辱的だ」ということが起こり得る。

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