佐々江賢一郎 「反撃能力」を導入し「核戦力共有」の議論を

佐々江賢一郎(日本国際問題研究所理事長)

ドイツや北欧が政策転換

 米国やNATO(北大西洋条約機構)諸国はウクライナに派兵せず、アフガニスタンやイラクで行ったような直接的な地上戦闘には参加しないことを明確にしてきた。「最初からそんなことを言っているからロシアを大胆にさせた」という議論があるが、私は米欧の判断は正しいと思う。自制を利かせないで「Tit for Tat」(やられたらやり返す)でやっていけば、プーチンの侵略決断を阻止できたかどうかには議論の余地がある一方で、直接的な戦闘が拡大し、核戦争など我々が望まない方向に進む可能性もある。

 NATOの結束は強まっている。ドイツは外交・防衛政策を転換して国防費を大幅に増額し、ロシアへのエネルギー依存を減らす決断をした。軍事同盟に加わらない非同盟の立場を長年取ってきたフィンランドとスウェーデンは、NATOへの加盟を申請した。ロシアの武力による制圧行動は今回に限らず、今後もあり得るという共通認識の下、ロシアの将来的な野心に対抗するための抵抗力やディターレンス(抑止)を高める方向に動いている。

 もしウクライナがロシアの支配下に入ってしまえば、こうした国々はロシアとの間の緩衝を失い、非常に厳しい状況に陥る。そうならないようにゼレンスキー政権およびウクライナ国家の保全やその当面の中立性を支援していくことが、自分たちの安全保障の上で重要な要素となると認識している。

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