佐々江賢一郎 「反撃能力」を導入し「核戦力共有」の議論を

佐々江賢一郎(日本国際問題研究所理事長)

ロシアが核を使用すれば悲劇

 懸念されるのは、ロシアのプーチン大統領の計画、野心のレベルがどこまでなのかはっきりとわからないことだ。

 ウクライナにとどまらず、ジョージア、モルドバなどロシアに近い国を防波堤として安全を確保していこうとしているのか、あるいはさらに大きな野心があって、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やフィンランドなども揺さぶろうとしているのか。地政学的に見て、かつての偉大なソビエト帝国、あるいはロシア帝国の再来を最終的な野心としているとすれば、非常に厄介だ。

 一方で、ウクライナをNATO拡張の「防衛ライン」とすることが当面の目標だとすれば、ウクライナ全土を掌握できなくても、プーチンがどこかで手を打とうとする局面が来ないとも限らない。ロシア軍の犠牲、経済制裁の影響などで、ロシアの内部は必ずしも一枚岩ではないという話も聞こえてくる。ただ、それがいつ表に出てくるのかが、今のところわからない。

 ウクライナは徹底抗戦の構えだ。戦場での戦闘がどうなるかが停戦交渉やその後の和平交渉の中身を決めていく状況にある限り、出口がないまま犠牲が続くことになる。

 こうした中、ロシアは核兵器や生物・化学兵器などの使用について、より具体性を帯びた形で威嚇のモードを強めている。通常戦力ではロシア軍は意外に弱く、これまでもNATOに対する通常兵力の劣勢を核で補う構えだったが、実際の戦闘で劣勢になってくると、核を使用することへの誘因が増えていく可能性がある。ロシアが戦術核の使用によって戦闘に勝とうとする選択をすれば、非常に大きな悲劇がもたらされることになる。

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