三木武夫と石破茂は何が違ったのか 50年前にもあった「総理総裁おろし」

竹内 桂(常磐大学准教授)

穏健な保守政治家で現実主義者

 もっとも、50年以上にわたる三木の政治家としての経歴を俯瞰(ふかん)すれば、漸進的な改革の実現、共産主義への反対、憲法の尊重、日米関係の重視、平和の探求などを志向する穏健な保守政治家という評価が妥当である。つまり、三木は「保守本流」とされる政治家との親和性が非常に強い。1960年代の池田、佐藤という吉田直系の二つの政権で閣僚を歴任するなど長く主流派に与(くみ)することができた要因は、三木の政治家としての本来の性格に依るところが大きい。

 反吉田だった三木が、池田・佐藤両政権で主流派となったことを転換と見る向きもある。しかし、三木の政治姿勢からすれば、穏健な保守政治家として本来のスタンスに回帰したと見るほうが適切であろう。

 今ひとつ指摘したいのは、三木が現実主義者だった点である。早くから派閥解消、党近代化や政治倫理の確立を主張し、首相時代に公職選挙法と政治資金規正法の改正を実現したことから、理想主義者としての側面が強調される傾向にある。確かに三木は政治に理想を求めていた。しかし、三木にとって政治とは、何より権力闘争への対応を意味した。権力闘争に勝ち抜き、自らの要求を貫徹するためならば、自身の主張と矛盾した行動を取ることも厭わなかった。派閥解消を唱えながらも派閥の領袖として派閥政治の中心に居続けたこと、政治倫理の確立を訴えながらも三木派の使途不明金問題を指摘されたことなどがその例である。


(『中央公論』11月号では、この後も第1次・第2次「三木おろし」が不発に終わった要因や、三木が解散総選挙に踏み切れなかった理由、三木と石破の命運を分けた決定打について詳しく論じている。)

中央公論 2025年11月号
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竹内 桂(常磐大学准教授)
〔たけうちけい〕
1973年石川県生まれ。明治大学大学院政治経済学研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。明治大学政治経済学部助教などを経て現職。専門は日本政治史。著書に『三木武夫と戦後政治』、編著に『三木武夫秘書回顧録』『井出一太郎回顧録』『三木武夫秘書備忘録』など。
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