平山亜佐子 断髪とパンツーー男装に見る近代史 紅吉、虎松の場合

第九回 紅吉、虎松の場合
平山亜佐子

女湯に入ろうとすると止められ、男湯で服を脱ぐと女湯を勧められ


 なお、この時点の虎松の格好は、髪は五分刈り、紺絣の着物に対の羽織、羽二重の兵児帯を広く巻いていた。背丈は5尺(約151cm)弱と小柄だが体重は18貫(67.5kg)というがっしり型で腕力も男性に引けを取らないそうな。
 この記事が載った雑誌は精神医学、社会心理学をテーマにした『變態心理』(日本精神醫學會)で、虎松を症例と捉えて分析を加えている。
 それによれば、柏家には代々一人の「変生(心理的に)女子が生まれる」とあり「先天性の問題となるべきものではなかろうか」とある。また、割腹した際の傷の痕が痛んで順天堂病院に入院した際に診療した医師によれば、脳髄と骨盤が男子と同様であること、生まれつき生理がないことが女性と違うところという。
 銭湯では女湯に入ろうとすると止められ、男湯で服を脱ぐと女湯を勧められるらしい。
 ちなみに虎松の性自認は男。
 その意味では紅吉のケースとは違い、性的マイノリティといえるだろう。

 お転婆娘の男装も、性自認が男性の女性の男装もある、明治末から大正はじめの話である。

参考文献
渡邊澄子『青鞜の女・尾竹紅吉伝』不二出版、2001年
足立元編『新しい女は瞬間である 尾竹紅吉/富本一枝著作集』皓星社
筑紫二郎「人間的証券 男性化せる女」『變態心理』日本精神醫學會、1919年
「演芸風聞録」1914年8月7日付東京朝日新聞

平山亜佐子
挿話蒐集家/文筆家
1970年、兵庫県芦屋市生まれ。エディトリアルデザイナーを経て、明治大正昭和期のカルチャーや教科書に載らない女性を研究、執筆。著書に『20世紀 破天荒セレブ:ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝:莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)がある。なお、2011年に『純粋個人雑誌 趣味と実益』を創刊、第七號まで既刊。また、唄のユニット「2525稼業」のメンバーとしてオリジナル曲のほか、明治大正昭和の俗謡や国内外の民謡などを演奏している。
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