大量の相続発生で「空き家問題」と向き合う大田区。海岸側と内陸側でまったく別の顔を持つ品川区の「輝く街・くすむ街」
牧野知弘の23区「街間格差」第4回
牧野知弘
どの駅からも遠い八潮
一方、魅力が感じられないのが品川区の海岸側です。
大井町の東側を流れる京浜運河の先に八潮という「街」があります。ここは埋立地で一丁目から四丁目まで火力発電所やコンビナート施設などが連なり、ほとんどの人は五丁目に集中して住んでいます。
1970年代から80年代にかけてUR都市機構や東京都住宅供給公社が団地を建設し、賃貸、分譲が行われてきました。
交通手段として品川、大井町、大森のどの駅からもバスで20分ほどかかるためか、賃貸は60平方メートル強で13万円台、中古価格でも76平方メートルの3LDKで3500万円台と品川区とは思えぬ安さです。
ただ島内には図書館やスーパー、学校や公園などの住環境がちゃんと整っていますし、交通の利便性さえ気にならなければ、品川区アドレスを格安で手に入れることが出来るのは魅力かもしれません。
同様に京浜急行線沿いの鮫洲や立会川といった駅周辺も、中小の工場や倉庫が密集していて開発が進まず、商業施設も少ないことから、住む環境としてはあまりおすすめしにくいエリアです。
京浜急行沿線を選ぶのなら住環境が整い特急停車駅でもある青物横丁か、さらに南の大森海岸まで視野を広げた方が良いかもしれません。
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牧野知弘
1959年生まれ。オラガ総研株式会社代表取締役。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、89年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。09年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。15年オラガ総研株式会社設立、以降現職。著書に『街間格差』『なぜ、街の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『こんな街に「家」を買ってはいけない』『2040年全ビジネスモデル消滅』など。テレビ、新聞などメディア出演多数。