単行本『無常といふ事』がやっと出る(四)

【連載第十四回】
平山周吉(ひらやま・しゅうきち)

珍しく加筆が目立つ「西行」の大幅改稿

 五篇目の「西行」と六篇目の「実朝」は、それまでの作品に比べて長いので、直しも多い。特に「西行」は大幅に改稿されたという印象を持つ。「西行」冒頭の「後鳥羽院御口伝」部分では、吉本が指摘した「お言葉」(吉本の記憶は「御言葉」)、「拝される」と敬語が使われている。研究者が指摘していたと思うが、初出の西行は「悲劇人」だが、単行本では「生活人」となっている。これは大きな改稿といえる。西行の和歌の解釈も相当書き換えられている。小林の直しの定評である「削り」よりも「加筆」が目立つ。

「西行」と「実朝」は当然のことながら和歌の引用が多い。単行本では削られる和歌が「西行」には四首あり、新たに引用される和歌が二首あった。一首は「恋」の歌だ。

「いとほしやさらに心のをさなびてたまぎれらるる恋もするかな」

もう一首は「詞書(ことばがき)」と共に鑑賞することが大事だとされる和歌の箇所で一首が加筆される。初出で、「詞書とともに読み、歌を詠む時の西行の肉体と思想とがよくわかる例を二、三挙げて置く」とあったのも、丁寧に書き換えている。

「西行の様に生活に即して歌を詠んだ歌人では、歌の詞書というものは大事である。詞書とともに読み、歌を詠む時の彼の心と身体とがよくわかる例を二三挙げて置く。どんな伝記作家も再現出来ない彼の生き生きとした生活の断片が見られる」

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