平山亜佐子 断髪とパンツーー男装に見る近代史 男装はエロからグロへ
第十四回 男装はエロからグロへ
平山亜佐子
異性装が、反社会的なものへ
そもそも俳優が異性の役を演じることは何も目新しい話ではない。にもかかわらず、1933(昭和8)年にことさらに「変態生活」として取り上げるのは、異性装をとらえなおそうという意図を感じる。
リード文には「男が女になり、女が男になる不思議さは、すべてエロの世界ではなく、グロの世界に於ける出来事でしょう」とあることにも注目したい。
世はまさにエロ、グロ、ナンセンス時代。異性装はエロではなく「グロの世界」だという。とするとこの辺りから、ディートリッヒなどに見る妖艶なエロな男装が、猟奇的、変態的、不気味、悪趣味な、反社会的なものへと変わったのかもしれない。
日本政府が国際連盟を脱退し、プロレタリア作家の小林多喜二が虐殺されたこの年は、太平洋戦争への着実な一歩を踏み出した時期である。
いわゆる「男装の麗人」のひとり、松竹少女歌劇団の水の江瀧子について書いた中山千夏『タアキイ』には、女の子が自称詞「ボク」を使う文化は1933年をピークに衰えたと書いている。広告やファン会報誌でしきりに「ボク」を使っていた水の江瀧子はその4年後に、ボクとは言っていないと否定し始めるのである。
参考文献
永田美那子『男装従軍記』日本評論社、1932年
新居格「男装の心理」『女性点描』南光社、1934年
「変態生活を営む俳優の舞台と家庭 男が女に 女が男に」1933年2月20日付読売新聞
『新撰 芸能人物事典 明治~平成』日外アソシエーツ、2010年
曽我廼家桃蝶『芸に生き、愛に生き』六芸書房、1966年
中山千夏『タアキイ』新潮社、1993年
友田健太郎『自称詞〈僕〉の歴史』河出新書、2023年
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平山亜佐子
挿話蒐集家/文筆家
1970年、兵庫県芦屋市生まれ。エディトリアルデザイナーを経て、明治大正昭和期のカルチャーや教科書に載らない女性を研究、執筆。著書に『20世紀 破天荒セレブ:ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝:莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)がある。最新刊は『あの人の調べ方ときどき書棚探訪: クリエイター20人に聞く情報収集・活用術』(笠間書院)。なお、2011年に『純粋個人雑誌 趣味と実益』を創刊、第七號まで既刊。また、唄のユニット「2525稼業」のメンバーとしてオリジナル曲のほか、明治大正昭和の俗謡や国内外の民謡などを演奏している。
1970年、兵庫県芦屋市生まれ。エディトリアルデザイナーを経て、明治大正昭和期のカルチャーや教科書に載らない女性を研究、執筆。著書に『20世紀 破天荒セレブ:ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝:莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)がある。最新刊は『あの人の調べ方ときどき書棚探訪: クリエイター20人に聞く情報収集・活用術』(笠間書院)。なお、2011年に『純粋個人雑誌 趣味と実益』を創刊、第七號まで既刊。また、唄のユニット「2525稼業」のメンバーとしてオリジナル曲のほか、明治大正昭和の俗謡や国内外の民謡などを演奏している。