戦後初原稿「政治嫌ひ」が「新夕刊」創刊号を飾る(上)

【連載第九回】
平山周吉(ひらやま・しゅうきち)

政治家、この偉そうな人物の仕事とは何か

 小林発言をキーボードで打って引用してみると感じるのだが、この部分も「全文書き換え」の疑惑がむくむく起きる。語勢、語調の息継ぎが、見事に小林秀雄なのだ。政治家否定を畳みかけ、有無を言わさない。それは「新夕刊」の「政治嫌ひ」でも同じだ。「新夕刊」では、まず「新式政治」を「風船玉」扱いにし、いつ破裂して消えてしまうかわからぬとばかりに、軽蔑してみせた。「旧式政治」も「新式政治」も信じていない。その後に、「政治嫌ひ」という人間を登場させ、「政治的無関心は、無知蒙昧の證拠だなぞといふ(もっと)もらしい意見に騙されもしない、たゞ彼には政治といふものは蟲が好かないのである」と「政治嫌ひ」の存在を擁護する。「政治嫌ひ」の「彼」とは、小林自身であろう。随筆「政治嫌ひ」の続く部分は、「近代文学」での発言とかなり重なっている。

「政治の形式や政治上の主義主張が、どの様に移り変らうとも政治家といふ一種の人間のタイプは変らない、と彼は信じてゐる、この不思議な人間タイプは何一つ本当に物を創り出した事はない、美しい詩も深い思想も有用な器具も、従つて、さういふ物を創り出すに必要な、長年月に渉る黙々たる観察や工夫や労働の喜びも苦しみも知らぬ、

 すると、この偉そうな人物の仕事とは何か、統計をとつたり[、]整理したり、説得したり、脅したり、気嫌をとつたり、管理したり、命令したり、支配したり[、]そして見掛けはいかにも現実的だが、よく考へるとまことに空漠として実感のない化物染みた仕事の為に命さへ賭ける、(略)若しかしたら人間のこのタイプにはデモクラシイといふものは永遠に解らないかも知れない

政治嫌ひの黙々たる抵抗を感じない政治などといふものは、何処へ走り出すか知れたものではないのである」

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